獲得形質が後代に遺伝することもありえるのかな

前作「ルリボシカミキリの青」が面白かったので引き続き購入。
福岡伸一さんは分子生物学者だが、
本書は科学エッセイというより科学にまつわることを書きながら福岡さんの記憶にある情景を綴っている作品集といったほうがよいように思う。


科学に関する部分が（たぶんほんとは）難しい事柄を平易な短文で説明してあってとてもわかりやすいのは前作同様。
これは何かを突き詰めたことのある人にしかできない技ですね。


前作に比べより強く感じたのは切なさといっていいほどの、
情緒の揺れを抑えた上での情感あふれる文章。
本書の魅力は極論かもしれないですが「まえがき」と「あとがき」に詰まっています。
“記憶は不思議ならせん階段である。
”　ポスドク時代に過ごした病院棟にあるらせん階段。
踊り場ごとにある扉を開けるとそこに記憶の断片がある。
それらをらせん階段が繋ぎ止めている。


私的な一代限りの記憶が文章化されること、
繋ぎ止めることで後世まで残る可能性を持つ。
らせん階段はＤＮＡのメタファーか。
記憶という獲得形質が繋ぎ止められた結果、
後代に遺伝することもありえるのかなと思ってしまう。