20世紀のドイツの没落を予言したニーチェ

本編を通して、
ワーグナーとの確執の全容が描かれる。

私はたまたま今年ドイツに行ったが、
確かにドイツ国民にとって、

ワーグナーとはナチズムを高揚した負の遺産としての感覚があった。

今のドイツの強さは、
このドイツにとっての「心地よさ」を追求し、
地獄に導いた
ワーグナーを否定し、
乗り越えた所にある。


本書の後半部、
ニーチェの解説をやめ、
三人称のニーチェの小説になる部分がある。

ここが圧巻である。
ニーチェの苦悩が初めて描かれたのではないだろうか。


本物の預言者が正直にものをいう時、
その大方がキチガイ扱いを受け、

歴史の闇に葬られるのだろう。
だが、
ニーチェは生きながら狂うことで、

かつて仲違いした者たちに再認識をされ、
ある種真実を知る霊能力者的なものとして受け取られたのだろう。

これは正確な言葉選ぶ知識人とはまったく逆の存在で、
普通には実現しないことだ。


日本の弱々しい知識人のように、
ただ狂って自殺していたら、
ニーチェはここまでにならなかった。

彼の凄さは狂い、
それでも死なず、
おかしくなった自分をさらし続けたことにもある。