同和といっても重い話ではありません

　某書評サイトで本書のことを知り興味を持ちましたが、
正直、
同和問題というのが自分には重すぎる気がして、
躊躇していました。
他のレビュアーさんの評価が高いので、
意を決して読んでみたところ、
想像したような暗くて重い話ではありませんでした。


　「同和地区の出身のため、
就職がだめになった」「婚約破棄された」などという辛い話しか聞いたことがなかったのですが（いや、
もちろんそういうこともあるでしょうが）、
いきなり出てくる人、
出てくる人、
ケンカ上等のイケイケばかりで、
「更池上等！それがどないしてん？」と言わんばかりの、
1960年代頃のコテコテの南河内の情景に唖然としてしまいました。
曹洞宗の名刹・永平寺にカチコミに行って、
逆にお坊様方にボコにされて帰ってきて、
「坊さんは拳法やってるから強い！」などというエピソードも‥‥。


　屠場での牛の解体シーンも迫力があり、
読んでいて、
肉や内臓の温かさ、
湿度がリアルに感じられました。
人によっては苦手な場面かもしれませんが、
日々肉と向き合っている主婦にとっては、
「ああ、
こういうふうに解体されるんだ」と感慨深いものがありました。


　経済成長、
部落解放運動、
政治家、
暴力団との癒着、
同和の利権の失効、
BSE問題‥‥と、
同和問題と絡んで、
この半世紀に渡る食肉史を知ることができます。
ある意味、
溝口敦さんの書かれた「食肉の帝王」と対を成す作品ではないでしょうか。
ハンナン事件の当事者の人も、
仮名ですが登場します。


　今は更池の屠場も閉鎖され、
更池という地名もほとんど残らず、
町も様変わりしたようですが、
本書の最後に書かれた「おわりに」という長い後書きに、
著者の、
父上と更池という町に対する深い愛情と郷愁の念をひしひしと感じました。