「新司出でて学説滅ぶ」時代の一択
かつて司法試験,とくに刑法の勉強は特定の学者の体系書を読み込んで,その思考をマスターすべきとされていた。

しかし,新試験開始後は,基本的には判例の立場から要領よく答案を作成することが,受験生の関心事になっているといってよい。
試験科目も増やされ,ロースクールで関係ない課題も押しつけられ,しかも三振すれば全てがパーになってしまうという制度を前提とすれば,それもやむをえないだろう。

最近では「判例はカミ(神),学説はゴミ」という言葉も定着しているそうだ。


そこに登場したのが「判例説」の立場を標榜する本書である。
まさに「新制度が行き着いた先」だなというのが率直な感想である。

はしがきによると「学生諸君の基本書離れが急速に進むという深刻な状況」を踏まえたということであるが,むしろ本書は(本書以外の)「基本書離れ」を決定的にするだろう。

予備校本はともかく,他の学者本を基本書にする受験生は激減すると思われる(もっとも,この本がヒットすれば,より受験生に迎合的な類書が出てくる可能性はあろう。
)。


現在の受験生のレベルからすれば,「司法試験の合格」という目標のためには「この1冊で,大丈夫。
」という宣伝文句は,誇大広告ではないと思う。

この教科書を読んで,あとは判例集や演習本(+予備校本)で実践的な勉強をすれば,インプットとしては必要十分だろう。

著者には,本書の「スキ」や,「判例説」の弱点を狙われないよう,こまめなアップトゥーデートを期待したい(簡易問題集をHPで公開するとのことなので,情報の追加もしてもらえれば受験生にとっては「神」対応だろう。
)。


内容的には,「行為無価値=倫理規範違反」と決めつけるなど,ちょっと時代遅れ的な説明ではないかという気がするところもあるが,司法試験の合否には影響ないと割り切りるということであれば,それでもよいのだろう(学生のニーズに応える意思・能力のない教員ほど,こういうところを見つけては,一生懸命ケチをつけたりするかもしれないが。
)。
基本刑法I─総論

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