楽園への扉。

これは1891年のゴーギャンの、
第１回目タヒチ滞在の記録。

彼はタヒチに着くとすぐに幻滅する。
「ここは私が否定し、
逃避してきたヨーロッパそのままだ」
もっと奥地へと、
単調だけれども豊かな景色を眺めながら進んでいく。

そこでもまだ彼は求めるものに出会えない。


やがてたどりついたマンゴーの密林と山と海に囲まれた土地。

そこで彼は小屋に住む。
彼は夜、
静寂の中で想う。

「私はいま、
あの牢獄のようなヨーロッパから遠く離れている」。


そこでは何かを採集するか、
獲るか、
栽培するか、
自然の中での技術だけが頼りだった。

だが彼はそうした能力をまったく持っていない文明人で、
食べるものがない。

ある朝、
彼は小屋の前に食べ物が置かれているのに気づく。
そこから現地の住民たちとの交流が始まる。

ここからの30ページが、
本書の根幹部分。


「文明は次第に私から遠ざかった。

　私は、
動物的で、
同時に人間的な自由な生活のあらゆる喜びを楽しんだ」

ある日、
彼は孤独である自分を感じ、
女性を求めて近隣の村に向かう。

そこでひとりの少女をもらい受け、
その女性、
テフラとの暮らしが始まる。


「彼女には、
この土地の少女たちが共通して持つ、
高尚で清澄な表情があった」
「夜の光が、
テフラの金色の肌の上を縦横に流れた」
「テフラの金色の顔は、
小屋の中や周囲の景色を、
喜びと輝きで満たした。

　私は日にちも時間も意識せず、
善悪も考えなくなっていた。
すべてが美しく善だった」

しかし彼に、
この土地を離れる時がやってくる。
わずか２ページほどの最終章で、

そのことを簡潔に書き、
この本は終わる。
しかし彼の生涯はそこで終わらなかった。

フランスで種々の出来事があった５年後、
彼は再びタヒチに舞い戻る。
そこで味わったのは、

第１回目の幸福とは対照的な、
苦い絶望。
大作は描かれ、
彼は山頂で自殺を企てヒ素を飲む。

ある種壮絶な、
悲劇的な生涯。