転換点にしてマスターピース

10年以上前だったろうか、
プリンス自身「あまり売れなかったし評価も当時は低かったけど、
あとになって『これが一番好き』と
言われることが多くて驚いている」と述懐していた。

私自身のこの作品に対する評価も、
まさにそんな変遷を辿って今に至る。

私がプリンスをリアルタイムで聴いたのは「パレード」からで、
当時はまだ「パープル・レイン」、
「アラウンド・ザ・ワールド」の衝
撃も生々しく残っており、
さらに初来日の熱狂もあった。
そしてプリンス本人はジェットコースター上の人となっていたのである。

レヴォリューションをあっさり解散し、
数度の仕切り直しを経たにもかかわらずすぐさま大作「サイン・オブ・ザ・タイムス」をリリー
スし、
圧倒的なクオリティのツアーを敢行し、
それをなぜか急に中断し、
最高のライヴ・フィルムを制作し、
作りたての「ブラック・
アルバム」をキャンセルし、
ほとんど間を置かずにに本作のリリース…目の回るようなスピードで動いていながら、
その仕事の
すべてが超ハイレヴェル（「アンダー・ザ・チェリー・ムーン」は許してやろうぜ…）という異常な躁状態にあった。

そんな状況で産み落とされた作品としては本作はいささか普通過ぎ、
当時は物足りなく感じられたものだ。

実は当時のプリンスは結構深刻なスランプ状態にあった。
セールス低下、
それに伴うワーナーとの関係悪化、
ペイズリー・パー
ク・レコードの経営不振、
オーヴァーグラウンドに台頭しつつあったヒップホップの脅威…さらに「ブラック・アルバム」制作前後は
ドラッグに手を出していたことも現在では知られている。
作品は相変わらず凄いがどうにも沈滞ムードで、
意図は分かるが明ら
かに過剰としか思えないジャケットのデザインも相まって、
すぐに聴かなくなってしまった。
しかし95〜6年頃、
当時のドイツ盤C
Dは曲間にチャプターが打たれておりトラックをスキップできると知って買い直し、
数年ぶりに聴いたところで印象は一変した。

良かったのである。

パーカッシヴで軽快な「アイ・ノウ」〜「アルファベット・ストリート」のお祭り騒ぎで幕を開ける本作は、
鬼のようなファンクビートに