我々はただ頭を垂れるのみ。

てんかん発作の治療のためにロボトミー、
すなわち側頭葉内側切除術を行う事で手術以降の記憶がほぼ残らなくなってしまった男性患者（ヘンリー）の記録である。

ヘンリーに協力してもらい、
記憶研究を行う事で記憶のメカニズム・システムが明らかになっていく内容は非常にアカデミックであり、
読み応えがある。
その内容については感嘆すべき内容で素晴らしい。


ただ、
自分にはやはり悲劇としか受け取れなかった。
ヘンリー氏自身は手術以降の記憶が無い。
人柄がよく、
何度か発作や、
激昂することがあっても検査に貢献し、
概ね静かな人生を送ったと言える。
一方で、
彼のご両親の心中は如何ばかりであったか。

彼の悲劇は、
そういう事柄の全てがほぼ記憶できない点、
そして元凶は（今となっては）間違えていた治療法によって生み出された点だ。


ヘンリーの死後に献体計画として脳を取り出し、
スキャン・採取・保存する脳科学者達。

P393「ヘンリーは…科学の為に尽くしてくれた。
死後に彼の脳を検査する事は、
彼の忍耐強い貢献を締めくくる絶好のフィナーレになるだろう。
」
科学者として彼らの態度は真に正しい。
我々一般人との意識の違いは仕方がないのである。

脳科学はヘンリーの犠牲と献身によって進歩し、
我々はその成果を享受する。

我々はただ頭を垂れ、
彼の冥福を祈るのみである。