英雄ではなくなったAtticus Finch、しかし、それだけではない

To Kill a Mockingbird（アラバマ物語）の作者、
ハーパー・リーが半世紀以上封印していた後日譚をついに公開するとして、
昨年から話題になっていた本がついに発売されました。


英語圏の各新聞社などが既に大きくニュースにしていますが、
これまでアメリカ社会で差別と闘う白人として、
社会の規範のように扱われていた前作の主人公・Atticusのイメージが根本からひっくり返る、
衝撃的な展開が待ち受けています。


彼がこの作品中で告白する価値観は、
若干の黒人に対する同情が含まれてるとはいえ、
2015年の社会では確実に人種差別主義者と呼ばれて違和感のないものです。
長年封印されていたのも頷けます。

ただし、
この物語を、
そういった視点で「Atticusがダークサイドに堕ちた！」のように語って済ませるのは、
早計でしょう。
NYの進歩的な若者Jean Louiseへと成長を遂げた彼の娘Scoutは、
父の秘密を知ると、
文字通り吐き気を催すほどに嫌悪し、
父親と対立します。

最終的に、
彼女が如何に、
この価値観の違いを消化し、
成長するか、
という点が、
この小説が書かれた1950年代の時代背景を踏まえた、
主題のように思います。


全体的には、
ミステリー小説、
冒険小説、
あるいは法廷ドラマとしても優れた側面があった前作に比べると、
やや平坦で、
盛り上がりに欠けます。
また、
後日譚とはいえ、
前作の人気登場人物でその後が語られない人物もおり、
消化不良であることは否めません。

しかし、
過大な期待をせず、
上記のAtticusの変容への覚悟をしておけば、
父の隠された秘密が発覚する場面、
父と娘の議論などは迫力があり、
最後まで読まされるものがあります。