ドストエフスキーの違った一面が垣間見える

本書は、
「ドストエフスキー」という名前から連想するイメージとは少し違ったテクストを集めたもの。
単に分量が少ないというだけでなく、
長編よりもさほど重厚さもなく、
肩肘はらずに読める。

以下5編が収録されている。


「白夜」（1848）
主人公の青年がとある女性に出会い恋に落ちる五日間を描いた中編。
主人公はいかにもドスエフスキーが描くキャラクターで、
躁鬱気質。
けれど青春小説のような若々しさも感じられる。
26歳という設定で、
ちょうど執筆当時のドフトエフスキー自身と年齢が重なる。
もしかすると著者自身がかなり投影されているのかもしれない。


「キリストの樅ノ木祭りに召された少年」（1876）
クリスマスの悲しく切ない 、
10ページにも満たない短編。
貧しい人々へのディケンズ的な眼差しが感じられる。


「百姓のマレイ」（1876）
シベリアの流刑地での追憶という形式で綴られる短編。
語り手は少年時代に知っていた農奴について回想する。


「おかしな人間の夢 − 幻想的な物語」（1877）
拳銃自殺を試みようとする男の告白、
という形式で語られる短編。
独特の回りくどい言い回しは少ないけれど、
語り手の自意識の強さはまさしくドストエフスキー。


「1864年のメモ」
『地下室の手記』執筆中、
一番目の妻に先立たれた直後に書かれたテクスト。
テーブルに安置された妻の遺体を前にしている場面から始まる。
その書き出しは「やさしい女」（1876）に似ているように思われる。


「キリストの樅ノ木祭りに召された少年」「百姓のマレイ」「おかしな人間の夢」の3編は、
実際に目にした出来事や時事ネタについてのエッセイ、
神学や哲学にゆいての論文、
短編小説などをふくむ『作家の日記』（18731881）から。
訳者解説も充実。


（以下追記）