あらすじを知っていても再読したくなる

『高野聖』は旅僧の夜語りから始まる怪異譚である。


夏の暑い盛り、
飛騨の山中で道に迷い、
ようやく辿りついた一軒の山家。
僧はそこで暮らす美しい婦人に一夜の宿を所望する。
泊めるにあたっての約束が一つ。
婦人がどんなにせがんでも、
都の話をしてくれるなという。
僧はその約束を守ることを誓い、
疲れたからだを癒すことにした。
　・・・

婦人は思うがままに人を鳥獣に変じる力を持っている。
誘惑にさらされる若き僧。
しかし、
僧のイノセントが婦人の琴線に触れたのか、
婦人は僧に難をおよぼさなかった というあまりのも有名な物語。


あらすじを知っていても再読したくなるのは、
幻想世界への誘いが強烈だから。
イマジネーションに身を委ねると、
ひりつく暑さの中での匂い立つような淫蕩さが際立ってくる。
媚態ともいうべき婦人の立ち振る舞いが実に官能的なのだ。
どこにも直接的な表現はなされないのだけれど、
僧の傷ついた身体を撫でさする場面や、
裸になって暴れ馬を抑える場面を読むと、
エロチズムとはこういうことなんだろうと思う。


夜が更けると婦人に化かされた魑魅魍魎たちが山家のまわりを徘徊する。
婦人はいう。
（今夜はお客さまがあるよ。
）と。


山家を後にした僧は、
信仰を捨て婦人の元にとどまるべきか逡巡する。
結局、
山家に戻ることはしなかったのだが、
このときには、
僧はすでに魅入られていたのだろうか。
いつ読んでも、
冒頭の、
僧が夜語りをする場面が引っかかる。


「寝る時、
上人は帯を解かぬ、
勿論衣服も脱がぬ、
着たまま円くなって俯向形に腰からすっぽりと入って、
肩に夜具の袖を掛けると手を突いて畏まった、
その様子は我々と反対で、
顔に枕をするのである。
」

この姿が爬虫類を思い起こさせはしないだろうか。