本書の価値は「読者が彼の意見に全面賛成できるか」ではない。

残念ながら字数の関係で、
具体的内容に触れる事はできない。
最低限私が言っておきたいのは以下にまとめられる。


中田氏は意見や立場に関するそれぞれの読者の価値判断からは独立して客観的な意味で、
明らかに国内有数の極めて優れた本格的代表的イスラム法学者である。


能力においても立場においても独自であり、
他の論者で代替する事は困難である。
本書の内容は恐らく本書でしか触れられない貴重なものである。


にも関わらず中田氏の過去の著作は殆ど全てが絶版であり、
ＴＶ（やネット）以外で中田氏のまとまった持論に触れる機会は普通の一般人にとって絶望的に乏しかった。
それが余計に中田氏に関する単なる偏見を増長した。


そんな中でも新刊の出版は大変貴重な機会であり偏見や先入観その他から中田氏の新刊を無視するのは無益ないし有害である。


中田氏を批判するのは大変結構な事であろうし、
場合によっては健全な事かもしれない。
日本人の一般的感覚から言ってややトンデモっぽい記述を見つけ出す事は容易だし、
イスラム国の批判は一応あるがかなりイスラム国に通じているように見える記述もある。
「イスラム国批判に対する」反論がかなり多く含まれているのも特徴的だ。
さらに中田氏のイスラム国批判の一部は「イスラム国はまだまだ不徹底だ」といった種類のものである。
イスラム法学やイスラム運動史の知識は確かで圧倒的なものだが、
西洋の哲学理論の援用となると単純でちょっと牽強付会なのではないかと思うようなものもある。
以上のように本書に否定的要素を見出すのは容易だ。


だが、
だからといって、
中田氏を無視すれば良いというのは違う。
中田氏に多くの間違いや危うさがあるというのなら、
それを確認するためにも本書を精読してみる価値と必要性がある。


私は本書を当然通読したが、
その上で以上の事を確信を持って言える。