「宗教」を取り戻す

宗教の本性を論じた古典中の古典、
近代宗教学の源流の一つとされる名著の新訳である。
日本では大正の初期以降、
これまで既に6回も訳されているが、
今回は約半世紀ぶりの翻訳となる。
古典の誉れにふさわしく、
200年以上前の本だが今読んでも得られる知見は数多い。

宗教は道徳ではない。
宗教は形而上学ではない。
宗教は制度ではない。
宗教は、
宇宙や超越的な存在に対する直観であり、
その直観が人間の心身にもたらす独特の感情にほかならない。
宗教の本性が見失われてしまったような現代を見据えながら、
語り手は、
宗教に固有なものの正体について確信に満ちた饒舌な言葉をつらねていく。
一部に難解で意味がとりにくいところはあるが、
しかし宗教とは何であるかについて一つの筋の通った観点からの解説には、
学ぶところが非常に多い。

聡明な神学研究者である訳者の解題で明解に指摘されているとおり、
シュライアマハーの真のねらいは、
ドイツの形骸化したプロテスタント・キリスト教の再生のために、
教会指導者たちを批判することにあったのだろう。
だが、
本書はそうした歴史的・社会的文脈から少し離れて、
宗教なきように思える、
宗教がないがしろにされているように見える社会において、
宗教について熱弁し、
他の何にも代替できないものとしての「宗教」の意義を追い求めるとはいかなることかを考える際、
大いに参考になるだろう。