消しゴムで書く、ということ。

　登場人物がやたらと多く、
人物の相関関係が把握しきれなかったので、
私は、
二度、
読み返しました。
この作品、
余計なことが余りにも多すぎます。
坂田奈緒、
なる人物を登場させる必要があったのか、
大きな疑問ですし、
カナダ旅行のくだりはまさに、
冗漫の極みです。
このように水増しする手法は最近の作家（特に、
賞を狙っている人たち）に多く見られる悪弊です。
４００字詰め原稿用紙にして、
１６０枚の作品とのことですが、
枚数を半分くらいにした上で、
もっと、
主人公である、
安藤さなえ、
と、
その両親、
そして、
その息子、
希敏（けびん）に焦点を当てて、
書きこんで欲しかったですね。
結局、
小説は何を書くか、
ではなく、
何を書かないか、
の勝負なのです。
安部公房も「消しゴムで書く」ということばを残しています。
少しでも多く書きこんだ方が、
いいのではないのか、
その方が賞に近づけるのではないのか、
という心理が働いてしまうのでしょうね。
とは言え、
私はこの作品を全否定するつもりはありません。
３７ページ下段にある「おまえが翼を折ったからだ。
」という一文や最後の２ページ（５６~５７ページ）にはこの作者の才能の片鱗を伺わせるものがありました。

　かつて、
五味康祐が「喪神」という極めて短い小説で芥川賞を獲得しました。
なんとも不思議な味わいのある作品でした。

　尚、
文中のページは群像９月号掲載時のものです。