合理的で現実的な提言

　現行の公的年金制度に対し、
これまでの制度改変の歴史を押さえ、
欧米諸国との対比を試み、
さらにそれらを踏まえた総合的・現実的な年金改革の道筋を例示している。
論点は数多く、
しかも年金に対する一定の知識がないと入り込んでいけない議論も少なくはない。
しかし「終章」（243頁〜）で示されている通り、
著者の主張は（１）正社員、
非正社員の区分けにかかわらず厚生年金に加入できるようにする（２）世界的にも珍しい保険料定額の国民年金を、
所得比例保険料の制度に改変していく（３）一方での低所得、
低年金高齢者に対する最低所得保障を強化していく――などと概括できるもので、
それらが理路整然とした筆づかいで記述されている。


　とくに国民年金保険料の未納額の増加は、
1号被保険者の多数を占める非正社員や無職層が、
収入に対する逆進性のある定額保険料の支払いができない、
あるいは後回しにせざるをえないため。
しかし、
未納者は結局、
年金を受給できないことなどを考慮すれば、
保険料未納の将来的な影響は限定的なものにとどまる、
という指摘には「なるほど」と納得させられた。
また、
賦課方式と、
積立方式（および年金民営化）の間の年金制度をめぐる「論争」を不毛、
と断じるあたりにも感じ入った。
全体として、
完成度の高い上質の好著だと思う。