残虐性を兼ねた悲劇
この作品を一言で言うなら残虐的な悲劇といえるであろう。


解説を提供している由井哲哉さんの言葉を引用させていただくと、


『シェイクスピアはこれ以降『タイタス』ほどの残虐な芝居を書いておらず』

といわれているように、
私が知る限りでも悲劇といわれる『ハムレット』や『ロミオとジュリエット』などの4大悲劇には見られない残虐性がこの作品にはある。


しかし残虐性があるのに、
不思議と読みやすい。


それはおそらくこの物語の主役が悲劇の被害者であり、
かつ元凶だからであるといえる。


そしてこれは主人公タイタスだけでなく、
この本に出てくる人物全てにいえることである。


この悲劇を生み出す中心人物の1人后妃タモーラでさえ、
加害者であり被害者なのだ。


故にだれか1人を憎むこともできず、
誰か1人に同情することができない。


おそらく作品に対し、
残酷だと感じながらも誰も憎めず、
誰も応援できないが故にこの作品に対する嫌悪感等を持ちえないのではないかと思う。


私自身この作品は人が死ぬときにとてもあっさりと死んでしまい少し物足りないと感じていたが、


これは訳者あとがきを見て、
むしろシェイクスピア劇の完成度の高さを知る要因となった。


詳しくは実際に作品を読んだ後に訳者あとがきを見ていただきたいのですが、
人があっさりと死ぬことがこの作品の残虐性をより強め、
作品に一本の柱を作り、
より完成した作品にしているといえます。


私はこの訳者のシェイクスピアを何冊も読んでいますが、
とてもすばらしい翻訳者です。


訳者あとがきも読み応えがあり、
レビューを書く上で参考にさせていただきました。


また、
作品を一通り読んだ後にあとがきを読むことでよりこの作品がおもしろくなりました。


ぜひ一度、
他の翻訳版を見た方でも、
文庫本で値段も高くは無いのだから読んでみてください。
シェイクスピア全集 12 タイタス・アンドロニカス (ちくま文庫)

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