プラトン的な思考は維持しつつも接しやすい対話篇になっている

Kindleで１００円ということで買ってみた。


単純にプラトン的な哲学的思考を知りたい分には、
意訳とは言え、
厳密に逐語訳をするよりよほど親近感を覚える翻訳である。
同一の翻訳者によるソクラテスの弁明と合わせても２５０円なので安いものなのではないか。


ソクラテスとクリトンの対話として書かれているのだから、
この位、
砕けた調子で書かれても、
逆に会話らしくなって良いのではないか。


実はプラトンの書籍を真面目に読むのは初めてだったのだが、
内容は短く、
話も分かりやすい。


実際のソクラテスがどんな人だったかは分からないが、
プラトンのこの著作からは、
後のプラトンの哲学者による国家統治の思想の萌芽が見受けられる。


プラトンの描く、
クリトンとソクラテスの対話は確かに哲学的で理性的なのだが、
何というか、
非常に上から目線なのである。


上述のような、
独特の意訳を用いつつも、
プラトンの哲学的思想の萌芽はしっかりと読み取れるようになっている。

ソクラテスに死刑判決を下したアテナイの人々について、
暗に自分達の義しさや善や美といった価値の理解できない大衆であるという見方が背景にあることに気づく。


アテネの法律がいかに立派であろうとも、
運用者が「衆愚」だとこういう結果が起きる、
という論法が垣間見える。


アテネの衆愚政治の問題は歴史的にも全くの的外れではないし、
プラトンが偉大な古代ギリシアの哲学者だったことを否定はしないが、
この著書からもプラトンの哲学には「エリートだけに分かる真理」という考え方が背景として存在していることが感じられる。


だからこそ、
プラトンは理想的な国家として、
哲学者による国家統治、
という考え方に進んで行ったのだろう。


短編で読むのに３０分〜４０分程度で足りる。

岩波文庫等で挫折したことがある方も、
非常に親しみやすい文体なので、
もう一度挑戦する本としては敷居は低くなっている良本だと思う。