自伝なら興味深く、小説なら浮世離れ

老いらくの恋にセレブリティな舞台設定
（男：大手電気メーカーの専務のち副社長。
長身で笑窪が素敵、
髪ふさふさで均整のとれた肉体で立居振舞は洗練されている。
新橋界隈でインタビューを受けている赤ら顔のご同輩とは大違いなのだ。


女：世界をまたにかけるドキュメンタリスト。
ファーストクラス以外は知らないわ。


背景：欧州のミーハーでない観光名所、
そして最高のグルメ、
ファッション、
古典や歴史への並外れた教養が用意される）

が、
これでもかと盛り込まれて羨望を通り越して食傷気味になってしまう。

そうしないと老醜を隠しおおせないとでも言いたげに。


ただ、
女優・岸恵子を少しでも知る人間なら、
最近の彼女のプライバシー（事実に基づいている部分があるとして）を垣間見るという楽しみに溢れている。
結末はどうなるのかという興味は持続するし、
エンディングで再現される導入部は映画の手法を採っていてお洒落だ。


名声や物欲、
性愛に向かうのも若さを維持する秘訣かも知れないが、
映画「八月の鯨」のような自然体の老女たち（ベティ・デイヴィスなど往年の女優が出ています）の方がどれだけ美しく魅力的かと考えさせられてしまった。


小説としては残念ながら普遍性がなく忘れ去られてしまうだろうから、
「ほぼ自伝」と謳う潔さがあったら良かったのにと思った。