小説は語りすぎてはいけない

　突然、
菜食主義者となり、
少しずつ精神に異常をきたしていくヨンヘをめぐって、
ヨンヘの夫、
義兄、
姉、
それぞれの視点からつづられた3編の連作短編。
ヨンヘはなぜ菜食主義者になったのか、
直接的に語られることはないけれど、
三者の語りから少しずつ、
浮かび上がってくる。
ヨンヘの徹底した合わせ鏡ぶりがこの小説を凄みのあるものにしていて、
そして、
そういうことだったのかもしれない、
と気づいたときには私自身の足元にもポッカリ同じ穴があいているような思いにとらわれる。
最初は理解できなかったものが、
ぐっと自分にすり寄ってくる感覚がスリリング。

　だからこそ、
3編目で「今、
彼女（姉）が誰にもわかってもらえずに耐えている苦痛を、
ヨンヘは、
かなり以前に、
普通の人より早いスピードで通過して、
そこから先へ進んだのだろうか。
」と解説してしまっているのが残念。
語らずとも、
十分に感じ取れるだけの力がある小説なだけに。

　あと、
翻訳文学ではあるけれど、
地理や文化の近さなのか、
訳のせいなのか、
かなり日本文学のような感触で読めてしまいました。
翻訳小説が苦手な人にもお勧めできる小説だと思います。