「観る者を戸惑わせる凡庸な外観と官僚的な答弁では逃げ通せない大きな責任。｣

　本作は裁判を記録した350時間に及ぶビデオ・テープから主にアイヒマンの答弁をメインに編集した作品。

　Ｂｌｕ-Ｒａｙながら元素材がビデオの為、
走査線がハッキリ見える粗い画像。

　淡々と「自分は軍隊と言う厳しい組織の中で、
上官の命令に従っただけである。
」と自己の無罪を主張するアイヒマンの様子には評者には先の震災後の政府や電力会社の答弁を観ているかの如き強烈な既視感があった。

　途中挿入されるハンガリーのユダヤ人評議会幹部が、
自分や家族を後回しにして他のユダヤ人を先に絶滅収容所に送り出していたと言う証言は衝撃的。

　但し、
一見アイヒマンに同情的で、
かつユダヤ人に厳しく見える所も有るが製作者は本裁判に関する批判的なレポート「イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告」を書いた政治哲学者、
ハンナ・アーレント共々、
アイヒマンの罪は明確であり、
死刑判決は順当であると明言している。

　前述した日本の大企業の問題との差は、
アイヒマンが支持し命令を実行した政治体制が明確に特定の対象人類の根絶を計画していたから、
である。


　添付特典のインタビューから監督・脚本家シヴァンとブローマンが語る本作製作の背景、
二人がイスラエル出身ながら、
現イスラエル体制を批判する反主流派の立場の人間である事、
現イスラエルにおけるアイヒマン的状況（パレスチナ人に対する残虐な作戦に疑問無く当たる善良で知的なイスラエルの若者）を危惧して撮られた作品で有る事が分かったのが収穫だった。

　解説によると、
本作を巡り、
製作者とホロコーストをテーマとした傑作ドキュメンタリー「ショアー」を撮ったクロード・ランズマンとの激しい議論が有った様だが、
製作側は「ショアー」を傑作と認めながらもホロコーストの神格化、
映像化不可能論は現代進行形の惨禍に対する感受性を鈍麻させるとし、
本作を作る切掛けの一つとなったとの事。


　目立たない特撮や無調の音楽の添付等は有るが感情を排したアイヒマンが検察の告発・質問に淡々と答えるだけの画面構成は正直退屈で辛い点も有るが、
先述のアーレントの著作や付属解説を読んでから臨むと非常に興味深い作品。

　本作関連の著作「不服従を讃えよ」も読んでみたい。