ジャズ史上に燦然と輝く名アルバム

　マイルス、
ウェイン、
ハービー、
ロン、
トニー…短期間とは言え、
この５人が同じ一つのバンドに在籍していたということは、
ほとんど奇跡に近いできごとだったと言ってよいと思う。

　１曲目の Prince of Darkness がスピーカーから流れ出した瞬間、
周囲の空気の色が変わる。
異様な緊張感があたりを支配する。
ロン・カーターのベース、
リズムキープという役割を忘れたかのように自由奔放に飛びまわってとんでもない動きを見せる。
マイルスとウェインのアドリブソロの間、
ハービーはほとんどピアノを弾かない。
テーマの提示部と、
ソロが回ってきたときだけしか鍵盤に触れない。
そしてそのソロにしても、
和声楽器としてのピアノの機能を忘れてしまったかの如く、
ほぼ右手だけで無機的なラインを紡いでいく。
この曲でハービーは（テーマは別として）単音楽器担当の一ソロイストとしての役割を与えられているに過ぎない。

　２曲目のバラッドナンバー Pee Wee はトニー作曲の、
このアルバムの中では最も美しい和声の進行と旋律をもつ曲。
ハービーはウェインのソロの背後で見事なアカンパニメントを聴かせる。
　マイルスは登場しない。

　３曲目の Masquarelo はウェインの作曲による、
このアルバムの中でも随一の名曲にして名演。
主としてフリジアン・モード（だと思う）を用いており、
フラメンコ風の旋律の動きを感じさせる瞬間もあるが、
音使いは遥かに複雑である。
この曲に限ったことではないが、
トニーのドラミングの奔放さにはあきれてしまう。
演奏が空中分解してしまうかしまわないかのギリギリのところでバランスを保っている。

　４曲目の The Sorcerer はハービーの作で、
彼自身のリーダーアルバム、
あの傑作中の傑作 SPEAK LIKE A CHILD でも演奏されているが、
同じ曲でありながら、
あちらの方では明瞭に感じられた調性が、
こちらの演奏ではあまり感じられない。
少なくとも各人のアドリブパートに関する限り、
僕の耳が悪いのか、
無調の音楽に聞こえてしまう。

　５曲目の Limbo も Prince of Darkness と同じで、
テーマとアドリブソロ以外の箇所でハービーはピアノを弾いていない。

　６曲目の Vonnetta