ヒューマニスム！

収められた物語たちは、
難しい話もなく、
すらすらと進んでいきます。


安部公房の世界は、
哲学に由来した、
その豊饒な比喩と皮肉を孕んだ独特な文体と、
寓意的物語によって成りったている
――と思っていましたが、
この短編集をみる限りでは一概にそうではないものだと認識を変えられてしまいました。


一篇目の「題未定」では、
それを嫌というほどわからされます。

安部公房を内側からみてみると、
こういう世界が広がっているのかも知れません。


かれはやはり、
『壁』や『箱男』や『R62号の発明・鉛の卵』といった寓意的小説。

あるいは、
『砂の女』や『他人の顔』といった独自の世界観を背景にしないと、

文体の発想を除いて本領が発揮できないのだろうと思いました。


安部公房の前衛的雰囲気が好きで買った方には、
あまり楽しめないかも知れません。

ただ、
安部公房を知るにあたっては、
貴重な一冊になると思います。