前立腺ガン治療革命 (小学館101新書) の感想

略歴によると、著者は「翻訳家」ということになっています。しかし、本書を読み、彼は優れた医療ジャーナリストであろう、と思いました。自身が前立腺がんの患者として（被験者として）実際にブラキセラピーを体験しているリアルさも読者には響きます。また英文の文献を読みこなす能力が、（失礼ながら、英語の論文を読めない医師に比べれば）有用で多様な知見に大いに加担していると思われます。
ともすれば有名な医師の著作にあたりがちですが、ジャーナリストとして、また患者としての目線による情報伝達能力は、医師のそれとは違った納得感があり、本書はその典型ではないでしょうか。

前置きが長くなりました。本書は２０１０年初版ですから現時点２０１７年では、より進歩した治療方法があることと思います。しかし、基本的な知識を得るには十分参考になります。日本でも急増中の前立腺がんは、実際には、検査技術の急速な向上が発見能力につながった表れ、といえそうです。寿命が今ほどでなかった昔は、あまり注目されていなかった（もっといえば認識されていなかった）ようですね。

男性特有のそのリスクは大いにありそうですので、予防知識としても本書は大いに役立つと思います。
ざっと述べるなら、まずPSA値（血液検査）でおおむね判断、それでグレイであれば、さらに生検により病理医の診断（グリソンスコアで、悪性度を確認）、その両データで治療方針を確定する、という流れが一般的のようです。

摘出手術という選択肢は現在ほとんどないようですね。状況に応じ、ホルモン治療と放射線治療のバランスが主流のようです。放射線治療でも非常に有効とされるブラキセラピー（放射性シードを埋め込む療法）は、著者みずからも体験され詳述されています。また、凍結療法（クライオセラピー）も注目される新しい有効な治療法（２０１０年時点で）のようです。

いずれにせよ、仮に前立腺がんが判明しても、あわてることなく、QOLを維持することをメインに治療方法を確定していけば、さほど怖れることはなさそうです。ただ、泌尿器科医のレベルにバラツキがあることも事実のようですので、すぐれた泌尿器科医のみならず、信頼できる放射線治療医、病理医の育成も、国に期待したいところです。

藤野邦夫氏の著書・訳書は本当に波長が合う。解説書の出版は多いが、良いと思って手許に置くのは、「前立腺がん正しい治療がわかる本」（村石修医師著）、「中高年男性に増えている前立腺がん」（伊藤晴夫医師著）、「前立腺がんで死なないために」（垣添忠生医師著）だ。しかしPSA値が高く、或いは針生検でガン発見の患者が参考にするには間違いなく藤野邦夫氏の著作が良い。「前立腺ガンこれだけ知れば怖くない」、「前立腺がん、これで全快！」（共に同氏訳）と、本書だ。治療後の再発・転移の場合には「心配しないでいいですよ再発・転移前立腺がん」が良い（福井巖医師監修）。前立腺ガン治療はこれまで伝統的に「全摘手術」だった。放射線治療の普及はあるが、密封小線源療法が出来る病院はまだ102病院（2010年2月現在）2010年4月以降に実施予定が6病院、合計108病院しかない。高線量率放射線療法（HDR）は14病院、重粒子線治療は2カ所しかない。治療設備がない病院で、放射線腫瘍医（約700名）がいなく、泌尿器科医師が手術専門で、患者に知識がなければ、主治医から手術を勧められ委ねるしかない。本書はPSA値（10以下か）、針生検結果（何本中に何本か）グリソンスコア（6以下か）、超音波やMRIや骨シンチ（限局、局所侵潤、進行ガン、前立腺体積）等々の違いで、低、中、高リスク群AとBでの治療法、組合せ、副作用、再発・転移後の治療法、全てが限られた字数でよく纏められている。骨を好む困った面はあるが、増殖がゆっくりで、時間的余裕があり、患者自身が治療法を選べる前立腺ガンだからこそ、情報収集し治療法を選び、それが得意の医師や病院を選ぶ為にも本書は良い。私は情報収集し1年半前に治療法と病院を決め、病院を変えて治療を受けた。快く検査資料と協力を賜った前の病院医師には大変感謝している。