学力と階層 (朝日文庫) の感想

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タイトル学力と階層 (朝日文庫)
発売日2012-08-07
製作者苅谷 剛彦
販売元朝日新聞出版
JANコード9784022617347
カテゴリジャンル別 » 人文・思想 » 教育学 » 一般

購入者の感想

「教育が果たすべき役割はますます重要で複雑になる。にもかかわらず、教育に割ける資源は減ってゆく。教育の担い手の質や量の確保の問題も深刻化していくだろう。かつてのような国による統制の強いしくみではうまくいかない。とはいえ、むやみな規制緩和や分権化が問題を解説できるという見通しも楽観的すぎる」。

2008年に発売された本の文庫化になる。著者は教育問題に詳しい研究者。様々なデータやアンケート分析に基づく主張を行っているのが特徴。特に、重回帰分析を用いて、家庭環境と学力及び学習習慣の間に大きな関係があることを指摘し、特に所得階層や生活習慣と学力の間の相関関係をはっきりと明らかにしているところは説得力がある。

知識社会の到来によって、学びかたを学ぶことが重要。自分探しが大衆化して教育の世界で一般化したことによる弊害。また、苦しい教育予算の中でのやりくりの問題。重くなる現場の負担。教員高齢化と大量退職によって発生する退職金や新規教員募集に潜む懸念。一面的な世間の批判に振り回される教育界。予算はなく時間も限られているのに、教育への要求は増え、新自由主義と新保守主義の影響を受けて国の教育方針も揺れ動く。

少し古い本であり、データは既に昔のものだし、その後35人学級や高校無償化、ゆとり教育見直しが行なわれた点についても本文には反映されていない。しかし、少し古い本だからこそ、かえって、日本の教育を巡る問題は本質的には何も解決されていないことがわかる。

尚、兼子仁という人との対話が納められている。苅谷氏はうまく流しながら持論を丁寧に説明するように運んでいるが、この兼子という人の主張の根拠と論理的な組み立てはよくわからなかった。あと、あとがきを内田樹が書いており、ひところ流行った「下流社会」という本は、苅谷氏に触発されて書いたと述べられている。

実証的なデータはわが体験的感覚とほとんど一致。これを実証的というのだと思います。

教育社会学者、苅谷剛彦先生による2008年に刊行された単行本の文庫版です。教育に感心を持つものであれば、避けて通れない、必ず読んでおくべきものだと思います。文庫版となってお買い得でもあるので、もし迷っているようであれば、強くオススメします。

先生は本書の中で「蓄積された知識」ではなく「学ぶことに対する意欲」こそが今後の社会を生き抜いていく上で最も重要な要素であり、これを「学習資本」と名付けています。

恐ろしいのは、この「学習資本」は家庭の文化的な階層によって明らかな格差があり、それが年々広がっているということです。塾に通っているか否かの影響も、残念ですが大きくなってきており、この部分は、学校教育では補いきれていないというのも悩ましいです。

「受験戦争は良くない」という意見も、そろそろ過去の文脈では通用しなくなってきているようです。基本的な事実として、現在、大学に入学する子供たちの4割以上は、昔ながらの入試は受験しておらず、自己推薦によって大学に入学しています。もちろん今でも、上位校を巡る激しい受験戦争は存在していますが、その世界にある子供はもはや多数とは言えず、その階層自体が固定化しつつあるというのが現実です。

きちんとした学力が身に付かないまま(「学習資本」が身に付かないまま)「自分らしさを発揮できる生きかた」だけがクローズアップされるのは、かなり危険なことです。欲求だけが高まり、それを実現する手段がない状態を「アノミー」と言いますが、これを止めるのは「学習資本」にほかなりません。

しかし「学習資本」を与えられぬまま、主体的に進路を選ぶことがよしとされる現代社会は、そうした「自己実現アノミー」にとらわれてしまう若者を増やすばかりなのです。たかが受験勉強でも、そこから「得たいものを手に入れることの困難さ」や「学習を通して自らの成長を実感することの喜び」を知るということには、意味があったというべきなのでしょうか。本当に難しい問題です。

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