ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学 (中公文庫) の感想

アマゾンで購入する

参照データ

タイトルヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学 (中公文庫)
発売日販売日未定
製作者エドムント フッサール
販売元中央公論社
JANコード9784122023390
カテゴリジャンル別 » 人文・思想 » 哲学・思想 » 論理学・現象学

購入者の感想

哲学など現代においては無用な営為だ、と考えるような人たちにも是非読んでもらいたい書物、それがこの『危機』書である。ただフッサールの著作の中では入手しやすく且つ比較的読みやすくもあるし、文字通り彼の総決算でもあるが、何の事前知識なしではおそらく読めないし読む契機も普通ないであろうことは残念ではある。
本書の重要点はおそらく次の二点だろう。第一に、他のフッサール著作と異なり強く哲学史(デカルト以来)が意識されていること。哲学史を客観主義ー超越論主義の闘争として見て、最終的に彼自身の現象学に高められるという、ヘーゲルの『精神現象学』にも似た叙述になっている。彼の辿り着いた境位を思えば感動的でさえあるが、これは言い過ぎだろうか。そして第二に、心理学的還元と超越論的還元という2ステップが明確に描かれ(これにより悪しき主客だとか、物自体が廃される)、彼の認識哲学原理が究極的にまで洗練されることでデカルトから西洋哲学につきまとってきた二元論が最終的解決と解消をみている、と(少なくとも自分には)思えた。主観ー客観という二元論こそが、世界が幾何学的合理的にできているだとか、真理は向こう側(彼岸)に唯一的にあるだとか、科学こそが真の世界を告げ知らせるだとか、またそれらに対する反動として客観認識は不可能だとか、「現前の形而上学」批判だとか、科学は一種のイデオロギーだとか、そういう一連の思いなしを生み出した当のものであるのに、今もその考えは変わっていないのではないだろうか。彼の哲学はラディカルそのもので、客観信仰を止めさせるという点で、理性など塵のように打ち棄てるニーチェに極めて近い。思索の外観だけからすれば全く違うのにだ!
フッサールが最終的に至った超越論的自我は、言うなれば生活世界を認識し妥当を形成する心理学的自我をも見つめ構成し、どこにも定在を持たぬような自我。言ってみれば究極的にはここから世界を把握する。この把握が他者のそれと重なり合うことで謂わば真理が生まれる。ことに生活世界に共握の可能性があることには必然性がある。これが自分の現象学理解だ。
彼の哲学は未だに色褪せていないし、その真摯な学問態度には胸を打たれさえもする。「暗い時代」を生きて現象学を伝えてくれたフッサールに畏敬の念を持ってこの本を読み終えた。

 1935年(76歳)ウィーンでの「ヨーロッパ的人間性の危機における哲学」と題した講演が基になっている。
 この書物には第3部まで収められているが、5部構成で構想されていたことが、私設助手オイゲン・フィンクの文章(付録1に収録)から分かる。即ち、第1部「学問の危機」、第2部「物理学的客観主義と超越論的主観主義」、第3部「超越論的問題の解明と心理学」、第4部「諸科学と超越論的哲学」、第5部「人類の自己責任」(標題は省略している)である。なお、第2部に関連した草稿「幾何学の起源について」が付録2として掲載されている。
 この講演が行われた20世紀前半と言えば、数学ではカントルが生み出した集合論を土台として位相空間論、群論、ルベーグ積分等が花開き、物理学では相対性理論、量子力学が登場し、情報科学では、チューリングが万能計算機械の論文を発表と、まさに「ヨーロッパ諸学」が光り輝いていた。「危機」という言葉は、あまりにもそぐわないし、ほとんど言いがかりのようにも聞こえる。
 その言葉は、当時の時代を背景に置いてみる時、意味を持つように思う。1932年にはドイツ財界からの援助を受けた独裁を指導原理とするナチス党が第1党になっている。翌年には「非ドイツ的」書物が焼却される焚書事件が起こり、また内相に任じられたゲーリングがゲシュタポを設置している。1934年にはヒトラーは、大統領兼首相の地位、即ち総統の地位に就く。翌年(講演の年)には反ユダヤ主義のニュルンベルク法が発令され、1938年にはナチス党員と突撃隊員がユダヤ人を襲ったクリスタル・ナハト事件が起こる。
 諸学はそもそもそのような動きが生まれるのを許してしまったし、また生まれたその動きを抑止することもできなかった。諸学は、あまりにも無力だったのだ。学問の無力さを、人々は痛感していたし、それ故、「諸学の危機」というフッサールの言葉にも耳を傾けもしたのだ、そう私は思う。

あなたの感想と評価

コメント欄

関連商品の価格と中古

ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学 (中公文庫)

アマゾンで購入する
中央公論社から発売されたエドムント フッサールのヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学 (中公文庫)(JAN:9784122023390)の感想と評価
2017 - copyright© みんこみゅ - アマゾン商品の感想と評価 all rights reserved.