放射線被ばくによる健康影響とリスク評価 の感想

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参照データ

タイトル放射線被ばくによる健康影響とリスク評価
発売日販売日未定
販売元明石書店
JANコード9784750334974
カテゴリジャンル別 » 科学・テクノロジー » エネルギー » 原子力・放射線

購入者の感想

この勧告はフクシマ原発事故の前年にまとめられたものだ。この本が興味深いのは、放射線に関わる科学的基準を問い直し、科学者集団の合意がいかに原子力産業に有利な政策で形成されてきたかを示しただけではない。その点では他にも類書は多い。たしかにその点でもでも多くの示唆が得られるが、なんと言ってもこの勧告の著しい特徴は、哲学的、倫理学的アプローチを基礎づけて考察している点にある。
環境がそれ自体の道徳的地位を有することを認め、その上で社会の全構成員の幸福の総和を、目的論的に最も大きくする能力に基づく結果の予測が、行為の道徳的評価のカギだとする功利主義を、環境と人間に共通する放射線リスクという観点から批判する。応用倫理学の最前線に立つ分析なのだ。
少数者の犠牲を統計的に容認する功利主義を退けて、国家は一般的な福祉という<想定された理由>で市民の権利を切り縮めて定義してはならないというロナルド・ドゥーキンの『権利論』や、目的論的にではなく契約論的に正義の要件を説いたジョン・ロールズの『正義論』の側に立って、内部被ばくの分析に当たっている。一人一人のいのちの大切さをないがしろにしないという出発点から、内部被ばくの基準を考え直す勧告なのだ。
原発を許容する側は、反原発の動きは恐怖心に駆られたヒステリックな反応だと一蹴するか無視する傾向があるが、この勧告は反原発という感情が、人々の自然の正しい反応であり、それにはまっとうな根拠があることを教えてくれる。だから内部被ばくの基準についても、たんなる統計的な処理ではないことが納得できるだろう。まことに時宜にかなった本である。訳者の労を高く評価したい。

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