愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない の感想

弟、妻、先生、友人、弟分、編集者など人は長く生き過ぎる分だけ数多くの「喪失」を経験してしまう。そして否が応でも汚れていく。その哀しみを埋めることが出来ず、わざと虚勢を張りさらに周りの人たちと距離をとってしまう「ハリネズミのジレンマ」（人には寄ってきて欲しいのに、来たとたんに針を立ててしまい威嚇して遠ざけてしまう状態）に陥った主人公に救いはあるのだろうか？

最近の「青春群像」シリーズからうって変わった「無頼派」路線は明らかに技巧や明るさを徹底的に排除した。文章も敢えてブツブツの短文で乱暴さを強調しており、書き分けるだけの実力を証明している。明らかに作者の本分はこちら側であることに安心し、完全なイッキ読み状態となった。

「でく」に続く伊集院文学の代表作として輝くことを保証する。