日本の雇用と労働法 (日経文庫) の感想

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タイトル日本の雇用と労働法 (日経文庫)
発売日販売日未定
製作者濱口 桂一郎
販売元日本経済新聞出版社
JANコード9784532112486
カテゴリ社会・政治 » 法律 » ビジネスの法律 » 労働法

購入者の感想

どうやら著者がAmazonレビューをヲチしているようなので、まずreservationから一つ。えー、わたくしはこの本が扱う分野について正当な評価を下すための知識や訓練を欠いておりますので、安易に五つ星にすることは避けようと思います。

さて、「新しい労働社会」では国際的な視点から日本の労働社会の特殊性と将来への提案を論じた著者、今回は座標軸を90度回して、でき上がったのは教科書でありながら一種の歴史ものとしても楽しめる一冊となりました。

日本の労働の特徴は「メンバーシップ型」(就業=特定の企業の一員になることであって、ある業務を行うことではない)であることにあり、欧米の「ジョブ型」(特定の業務を行うために、たまたまある企業に雇われる)とはそのありかたが異なっているのだ、という点では「新しい労働社会」と軌を一にしています。ところが面白いことに、日本においても法律的には「ジョブ型」の構成になっているというのです。我が国は呆もとい法治国家ですので、これは矛盾を孕んでいます。

この本で著者は、歴史的な過程を追って、メンバーシップ型就労とジョブ型法制度との擦り合わせがどのように起こったかをダイナミックに論述していきます。簡単にいえば、メンバーシップ型の労働を支持する/前提とした判例の積み重ねによって、それが実装されているということのようです。これを「現実に合わせた法の解釈」と思うか「裁判所による法を曲げた現状追認」と思うかまでは著者は語っていません(行間には何かが沁み出していますが…) このあたり、法律に詳しい方なら、もっと面白く読めるのでしょう。

「新しい労働社会」にもあり、興味深かったのは、第二次大戦の挙国一致体制が日本の労働社会に今なお大きな影響を与えているという点です。戦時体制の下、労働社会が一瞬フラット化し、それが敗戦後の労働運動のモデルとなったというのはなかなか皮肉ではありませんか。

(* この本、教養課程の教科書なのだそうです。うちの業界にもこういう教科書があればなあ、と思ったのは内緒です *)

本書は大学の講義用のテキストとして執筆されたということで、労働問題(及び労働法)の大部分について網羅的に言及されている。なのでそういう意味では非常に教科書的ではあるが、ただ著者がその方面に対して(実務経験も含めて?)非常に強固なバックグラウンドを有しているせいか、この手の本には珍しく読者をぐいぐい引っ張って読ませる本だ。
本書を読んだ多くの読者に強烈に印象を残しただろう主張は、とにかく日本における労働契約の本質は(特に規模の大きい企業になるほど)メンバーシップ型のそれであるというものである。メンバーシップ型の一つの特徴として、労働契約は(欧米とは異なり)職務の定めのないものであるというのが挙げられる。つまり大雑把に言えば「仕事がなくなってもそう簡単にクビにはしないから、定年までしっかり会社が面倒見るつもりだから、仕事の内容とかそういうものについては基本的には会社の言うことに従ってね」というものだ。僕はこれはわりかし普通のことだと思っていたのだが、これはどうも日本の労働における大きな特徴の一つであるらしい(このメンバーシップという概念は、日本社会の特徴をとらえた言葉として出てくることのある「村社会」「均質」「平等」なんかとも非常に共通点の多い概念であると思う。とにかく「みんな仲良くやろーぜ!」である。僕も嫌いではない)。著者はこのメンバーシップという用語を一つの軸として様々な事象、法解釈なども説明しているため、こちらとしても非常に理解がしやすかった。
また元々欧米(独?)に倣って作られたジョブ型の雇用契約の原則が、(司法が)信義則や種々の法理といった法の一般原則を駆使することで、メンバーシップ型雇用契約の原則に軌道修正されて行く過程(「司法による事実上の立法」)は、純粋に読み物としても面白い。
知識や経験が足らず、まだ理解の追いつかない箇所がいくつもあるが、それも踏まえて何度も読み返すだけの価値がある本なのは間違いないと感じた。

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日本経済新聞出版社から発売された濱口 桂一郎の日本の雇用と労働法 (日経文庫)(JAN:9784532112486)の感想と評価
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