改訂版 小林秀雄の哲学 (朝日新書) の感想

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参照データ

タイトル改訂版 小林秀雄の哲学 (朝日新書)
発売日2013-09-13
製作者高橋昌一郎
販売元朝日新聞出版
JANコード9784022735263
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 評論・文学研究 » 日本文学研究

購入者の感想

 10代後半から20代後半までは、小林秀雄をよく読んだ。友人の中に小林の信奉者が二人いて、彼等に感化されていたのだ。その友人達のお蔭で、ドフトエフスキーも読んだし、印象派の絵画を観ることもおぼえた。が、30を超えてからは小林を殆ど読まなくなった。知的好奇心が失せた、と云うよりも、知的虚栄心すら失くなったと云うことなのだろう。いくら一所懸命読んでもよく解らなかったのだ。よく解らないものを読むことは疲れる。「解らんものは解らん」でいいではないか、そう開き直ったのだ。
 そして、ついこの間、朝日新聞の書評欄で『小林秀雄の哲学』の紹介を読み、誠に低俗な動機で恥ずかしいのだが、小林の若き日々の女性関係が赤裸々に語られていると知り、興味を覚えてこの本を購入した。これまで知らなかった小林の様々な面を知ることができて面白かった。長谷川康子、坂本睦子との経緯(いきさつ)は、ぼんやりとは知っていたが、あの「人生の教師」「君子」然とした小林にこんな面があったのかと驚くと同時に、成程そうだったのか、と納得することも多々あった。
 また、酒を飲んだ小林が、論争の相手が涙を流すまで攻めまくる「いじめっ子」であったことも面白かった。彼の文章と同じように、小林はあくまで自己主張の人。「論理」の人ではなく「信念」の人だったのだろう。
 何が論理的に正しいかは、科学の世界では大切かもしれないが、一人一人の人間にとってはさして大切ではない、個々人にとって大切なのは、己が何を信じ、その信じるものを飽くまで信じてどう生きるかなのだ――どうやら小林の思想の中心にあるのは、そのことのようだ。
 若い頃の私は、小林のそうした考え方に反撥していたのかもしれない。あまりに自己中心的に思われたからだろう。そうした生き方が果たして善い生き方なのかどうか、未だによく判らない。が、歳を取った今、そうした生き方に自分が憧れていることも確かなのだ。
 小林が亡くなったのは80歳。万が一そこまで生きられると仮定するならの話だが、私にはまだ17年近くの年月が残されていることになる。懐かしい友の顔を思い浮かべながら、もう一度一所懸命小林秀雄に挑戦してみようかしら、……と思わせてくれる一冊だった。

この本は、題名・著者の来歴から考えて、小林秀雄の思想をラッセルやウィトゲンシュタインの論理哲学の視点(意匠と言ってもいい)から掘り下げ、発展させるものかと思い購入しました。
しかし、内容はそうしたものではなく、昔の本に書かれた小林氏の実生活・逸話を取り上げ、並べたものでした。
著者はこの本を書くために膨大な小林氏の全作品を読んだと書いてありますが、「読むこと」の大事について、味読・熟読・体玩という言葉をどう受け止めたのでしょうか。その人の生活が残した形骸からだけ思想は甦らず、自分の中に思い描き体験することで、現在進行中の自分の生命が生き生きとしてくるということは読まなかったのでしょうか。
第7章では急にベルクソンと小林氏の「非科学性」を批判していますが、なにが「危険」で「どうすべきか」ということについても詳しく論じられていません。書かれているのはラッセルの意見であって著者のものではありません。もちろん私は「オカルト」を信奉するものではありませんが。
この本で、著者が小林氏を敬愛しているのはよく伝わってきます。ですが、敬愛するということと、よく読むことは同じことではないでしょう。

その難解な文章によってセンター試験国語の平均点を大幅にダウンさせ物議をかもした近代日本の代表的な批評家、小林秀雄。信者的な読者は彼の達意の文章を礼讃し、ついていけない反発者はその論理の迷宮ぶりにさじを投げる。非常に興味をひかれるのだがしかしいかんせん手を出しにくいこの大作家の「哲学」を、極めて明晰な論理を備えた著者が実に魅力的に語ってみせたのが本書である。小林秀雄の没後から30年。かなり多くの読者に開かれた入門書がここに登場したといえるのではないか。
著者が厳選した小林の文章をまず数ページほど読ませた後、その文章の背後にある小林の人生史の特に重要な部分を辿りつつ、さらに彼の文章を成り立たせている論理と感性が読み解かれていく、という構成で序章+全7章が進んでいく。小林の文章がなぜに人を魅了し、感化し、動かすのか。その謎に徹底して論理的な思考で迫り、ときに小林の文章の論理的破綻や思索と体験の混同を指摘しつつ、だが究極的にはそれに引き込まれていかざるをえない読者としての自己を垣間見せながら議論が展開される。小林秀雄という人と文への批判的読解と信仰告白にも似た思い入れの吐露がないまぜになった記述がとても独自的で魅力にあふれ、そんな著者の心をとらえてやまない小林の文章に、もっと触れてみたくなってくる読者も多くあるだろう、好著であると思う。

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