ジゼル　全２幕 [DVD] の感想

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このディスクは1983年の公演を収録したアイテムなので、流石に画質は悪いが非常に高い質の公演を提供してくれるアイテムだと思う。この公演のエディションは高名なPetipa版。最近のBart版やWright版に比べると、物語の進行や構成に弱さがあるが、それでもGiselleと言う作品の全貌はこの版でも十分過ぎる位に表現されている。特に２幕は（Giselleの墓が下手前方に置かれているのに疑問を持つけれども）通り掛かりの人の命を平気で奪うWillyの恐ろしさとGiselleのAlbrechtを守ろうとする必死の思いの交錯が見事に表現されていて、これだけでも圧倒される。

主役のG.Mezentsevaは、美女ではないけれど盤石なテクニックと豊かな表現力で確実にGiselleを生きていた。登場した時はその容貌が弱弱しく可憐な少女と言うイメージから掛け離れていたので、一寸違和感を覚えた事は確かである。その厳格な踊りのスタイルに彼女はMyrtaの方が適役なのではないかとすら思ったけれど、鑑賞するに従って其の違和感が消え、時折見せる恥じらいの表情がとても可愛らしく見えてきた。狂乱の場で役に入り過ぎたのか、涙まで流しているのである。２幕ではその厳格な踊りが、実体のない亡霊のGiselleを完璧に表現していた。完璧な技巧があってこそ、実体のない亡霊を表現出来るのである。

Albrechtを演じたZaklinskyは１幕の戯れの恋を楽しむ青年貴族から２幕の本当の恋を知り悔悛に満ちた大人の男への変貌をその美しい容姿と高い演技力そして非常に高いダンステクニックで描写し尽くした。彼もまたAlbrechtを生き抜いていた。

HilarionはSelutsky、キーロフの長老的ダンスールで名教師。演技がやや大時代的だが、ジゼルに恋い焦がれる若い男をしっかり演じ得ていたのは流石。二幕の破滅の場面では、動きにキレがないけれど、却ってそれがWillyの魔力で無理やり踊らされている感を出している。

MyrtaのTerekhovaは、その存在感と鋭利な技巧を駆使して亡霊の長を表現しており、見事に統一されたWillyの群舞も死の恐怖に満ちて圧倒される。このディスクはGiselleを最初に知る為の一押しのアイテムだと思う。