劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス Blu-ray　Standard Edition の感想

TVシリーズの後日談となるストーリー。完全にTVシリーズ視聴済みの人向けの内容です。
TVシリーズのシーズン１では「シビュラシステム」の基本的な成り立ち、シーズン２では「シビュラシステムの進化」が物語のテーマでした。
本作はシーズン２に続くエピソードであるため、シビュラシステムは進化後のPure White（犯罪係数０）の状態。今回のテーマは「シビュラシステムの海外進出」であり、そこにシーズン１で姿を消した狡噛のその後のエピソードを絡めています。

個人的に、シーズン２以降のストーリーのネタはどうするのか気になっていました。（私自身はそう思わないですが）ただでさえシーズン２はシーズン１の二番煎じ・下位互換と一部で批判されていたので。
なので、今回の主要テーマについては「そうきたか」と思った。普通の人間と違って私欲や野心を持たないはずのシビュラシステムが、当初の目的である日本の治安維持を越えて海外進出を目論むのはやや強引に感じましたが、概ね許容範囲内です。

脚本は綺麗にまとまってはいますが、教科書的で面白みには欠けます。
シビュラシステムにかかわる次のテーマを考えました、それだけでは華がないので人気キャラクターの狡噛のその後を絡めました、表面上の敵と事件の黒幕を配置し、アクションの魅せ場としてはお約束のドミネーター活躍シーン（犯罪係数ごとの機能をすべて紹介）と、これまたファンお待ちかねのシラットを織り交ぜた格闘シーンを用意しました、最後に起承転結を整えて出来上がり、という感じ。
登場する人物はシナリオを動かすための駒でしかなく、背景や心情を考察する余地はありません。味方陣営は常守と狡噛しかほぼ出番ないし。
紛れもなくプロの仕事ではあるのですが、型通りすぎて、そこに作家の情熱のようなものは感じられませんでした。
『PSYCHO-PASS サイコパス』はもともとエモーショナルな作風ではありませんが、シリーズが進むにつれてますますセオリー優先で、ヒューマンドラマは薄れていっている印象です。

1期、2期からの連続視聴です。
作品内容に関する感想のみで、多少のネタバレも含みますのでご留意下さい。

あらすじについてはAmazonの商品説明欄にも内容紹介されていますので割愛しますが、2期から時系列順の続編となります。
社会システムやシビュラなど世界観に関する設定や、ドミネーターなどガジェット面の解説は前作までの視聴が前提となっており、劇場版で改めて説明の為の尺は割かれていません。
また、2期で初登場のキャラクターもそのまま引き継がれていますので、劇場版単独ではあまり理解が進まないでしょう。
視聴に当たっては、出来れば前2作、最低でも1期だけは予め視聴することが求められます。

評判が芳しくなかった2期と違い、評価が高かった1期とほぼ同じスタッフによる劇場版ということで、あのクオリティをもう一度と期待した方も多かったと思いますが(私も含めて)、結果から言いますとやや肩透かしを食わされた印象です。
やはり、と言うべきか、ある程度予想はしていましたが物理的な尺の要因が最も大きいでしょう。

細部まで丁寧に考えられた世界観、美麗な作画、重厚なテーマを中弛みなく描き切ったテンポの良い脚本など1期の評価点は多岐に渡りますが、名作とまで言われる最大の要因は、私見ではありますが、犯人を含めて深く掘り下げられた各キャラクターの人物像と、それに立脚した群像劇が2クールというボリュームを目一杯使って描かれていたことだと思います。
ところが劇場版は、2時間と言う制限上、登場人物の掘り下げは自ずと限定的になりますし、それがあって充実する群像劇という手法も取り難くなります。
もしそれをやるとするなら、TV版でしっかりと掘り下げられたキャラクターを使って劇場版で1つのエピソードを制作するやり方だと思いますが、2期では登場人物の掘り下げが充分出来ていたとは言えませんし、1期・2期とも黒幕は最終話で命を落としていますから、劇場版でそれらの敵役を活用することもできません。