新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書) の感想

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タイトル新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)
発売日販売日未定
製作者濱口 桂一郎
販売元岩波書店
JANコード9784004311942
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 社会学 » 社会学概論

購入者の感想

非常勤職員ながら労働問題に係る仕事をさせてもらっている。
非正規雇用労働者を使用する事業主に対して、労働基準法を監督する立場から啓発指導する仕事である。昭和42年に大学を出て以来、定年に到達するまで、人事労務の仕事一筋に従事してきた。臨時工を採用しては半年後には正社員に登用したり、家庭婦人を9時から16時30分までのパートとして採用し、結構な金額のボーナスも支給し、大切に使ってきた良き時代の思い出が私の労務管理の根底にある。
時代は移りバブルがはじける頃からわが国の労使関係は、なりふり構わず、人件費は単なるコストとして経営にとって負の側面ばかりを論じるようになってきた。成長期には、人材をコストと考える前に、いかに高いレベルの仕事をしてもらって、労働者の充実感を高めるとともに経営にとっても付加価値が増すことを考えていた。
そして今、労働基準法に係る仕事をしていて常に感じるのは、労働法制の不自然さである。労働現場をみていないタテマエ論が多く、仕事をしていても、何か矛盾を感じながらの日々であった。
もともと、労働法が専門ではない小生にとって、濱口先生を存じ上げたのはこの度の新書が初めてであった。頭の中のもやもやがスッキリと解消された気分である。
日本の「雇用」契約は「メンバーシップ」契約であること、そこに日本の労使関係の原点があることは同感であるし、加えて、私は日本人の中にある強い差別意識、常に自分よりも弱い立場の人間を作っておかなければ満足できないという「貧しい心」が作用しているのではないかと思っている。
現場の実態と、そこで働く労働者の気持ちをしっかりと踏まえて、労働関係の仕事をしていかねばと、気持ちを引き締めた次第。この書物は私にとって、座右の一冊になった。

 労働問題のみならず生活のあり方も含めて、議論されていくべき論点と方向性をコンパクトにまとめた良書であると思います。
 評者は、本書を戦後の労働運動のあり方をめぐってなされた「内包化・外延化」論争の現代版と位置づけます。企業別労組の枠を乗り越える「地域ぐるみ」の運動を展開した高野実に対して、大河内一男はそれを「外延化」と批判し、「経営の中に入り込む」ことによる企業別組合の補強(内包化)を主張しました。その後、日本の労働運動の主流は企業別組合によって占められる一方、地域の運動は○○ユニオンとして引き継がれました。
 本書やブログなどの主張を読むと、濱口氏は「外で騒いでいるだけ」のユニオンより、企業別組合によって職場の民主主義が再構築されることを現実的だと考えているようです。つまり、外延化よりも内包化であると。確かに、企業別組合の変化、職場における民主主義の実現は重要課題です。しかし、「民主主義は工場の門前で立ちすくむ」と言われて久しいなか、主流の労働組合が自ら率先して民主的な組合運営、職場の民主化を進めていくと考えているのだとしたら、濱口氏を「リアリスト」だと評価することはできません。実際、今これほど労働問題への関心が高まっているのはユニオンが「騒いだ」からこそであり、主流の組合は腰が重いのが現状です。また、民主的な組合運営の模索を長年行ってきたのもユニオンなのであり、そうした活動を軽視して「新しい労働社会」を展望することはできないと考えます。
 高野は、(民族意識のもと)内包化と外延化を分けて考える大河内の議論を批判しましたが、それは企業別とユニオンを分けて考える議論への批判にも通じ、敷衍すれば「ワーク」(職場)と「ライフ」(地域)が分かれてしまっている日本社会の現状ともつながるでしょう。濱口氏の「ワークライフバランス」に関する鋭い議論と労働運動へのバランスを欠いた視点の微妙なズレが気になったので、星を一つ減らしました。「民族意識」は「新しい労働社会」のメンバーシップの問題とも関連しますが、その議論は省略します。

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