傷物語 〈III冷血篇〉(完全生産限定版) [Blu-ray] の感想

アニメがカラーなのは今や当然ですが、その中では異質なくらい色使いが絞り込まれた絵作りが特徴です。その中で終始、場面を支配しているのは様々な赤です。明るい赤い傘で慫慂する羽川翼、暗い赤のドレスのハートアンダーブレードそしてバトルシーンで画面を支配する阿良々木暦とハートアンダーブレードの血しぶき。だが、どれもどこか暗く沈んだ色使いです。まるで冷たい血のようです。
白黒に赤のパートカラーともいえる印象的な組み合わせに、唯一現世の生命を感じさせるのは決闘場となった競技場の緑の芝生。そこが阿良々木暦の吸血鬼と人間の行き来する場となったのは象徴的というべきでしょうか。30年以上前の漫画雑誌ではカラーといっても赤と黒の二色で表現することが多かった。その走りはうる星やつらだったと思いますが、それでも墨だけとは次元の違う表現でした。それは赤が生命を象徴する色だからでしょうが、傷物語ではそれが効果的に使われています。赤の存在感が際立っています。
この作品はハートアンダーブレードの命乞いで始まりましたが、締めくくりはやはりハートアンダーブレードが死を拒まれて終わります。皮肉な終わりは以降、延々と続く物語シリーズの背骨として登場人物たちを支えて、いや縛り続けます。結局は、その呪縛は今のところは解かれないままです。
今回の副音声は羽川翼と忍野メメのレアなコンビです。というか、ハートアンダーブレードは前回で凝りてしまったようです。そのくらい傷物語の羽川翼はウザいキャラがはまっている。と、同時に意外に忍野メメが少女の相手が苦手というのが浮き彫りになります。思えば千石撫子の時も基本、トークは受け身だった。それにしても携帯食のノリはウザいを通り越して鬼気迫るものがある。何かが欠けている人間のウザさがかえって魅力になっている。
さて、物語シリーズはエピソードが終わるとあとがたりで締めくくるのですが、なんと今回は神谷、堀江、坂本、桜井の傷物カルテットです。豪華版です。内容は聞いてのお楽しみというか、これまでのシリーズのあとがたりの延長線です。基本的に神谷さんとヒロインという組み合わせが神谷さんと他3人といったかんじです。映画はテレビと違って語りよりキャラで絵を作ってある印象でしたが、やはり、物語シリーズは神谷さんだなあ、というオチです。

いろいろあったにせよ、阿良々木君とキスショットの愛情の物語なんだなと思った傷物語完結編でした。普通の男女の関係ではなく、人と異類、18歳と598歳、困っている人を助けたい男と自由奔放な女の間なので、ギャップがとても大きく、互いに真実を知れば知るほど相容れない所が見えてきます。しかし、根底で相手を自分より大切に思っているところは二人に共通。それを傍らで見せつけられながらも、友人として阿良々木君にしっかり寄り添う羽川さんって天使というか化け物ですね。
こういった心理的な土台ができたので、あれだけの物語シリーズが成立したのでしょうか。
原作に忠実でありながら、映像表現では照明が勝手に点灯していくところとか好き勝手に描かれています。阿良々木君たちの心の中の色の移り変わりといったようなものの理解を助けているのだと思います。阿良々木君とキスショットのバトルはもっと凄惨なものかと思っていましたが、コミカルとも言える漫画的な表現も取り込んで、見ていられるぐらいになっていましたが、キスショットが食事をしている場面は血糊も派手だし、なかなかグロくて、阿良々木君のショックが感じ取れました。
それにしても、完全体のキスショットの美しさには参りました。そして、不自然さを感じさせないで27歳から幼女までのキスショット／忍の声を変化させた坂本さんの技に感服です。
ここしばらくでは最後になるだろう「終物語（下）」のアニメ放映を前に、原点にあたる物語をシャフトらしい映像で見られて、良かったです。

＜副音声＞羽川さんと忍野メメの二人が映像と無関係に掛け合っています。羽川さんが壊れ過ぎでメメも聞いている方もついていけない。
＜あとがたり＞神谷さん、坂本さん、堀江さん、櫻井さんが「傷物語」全体について、取り組み方や見どころを話します。誰も願った通りの未来を得られなかった本編を観た後だと、落ち着いて4人の声を聴いているということだけにも何か幸福感を感じます。
＜劇伴音楽集　其ノ参＞映像抜きで音楽だけ聞けるのもたまらない贅沢です。エンドロールの「étoile et toi (edition le blanc)」「星と君