貧困の克服―アジア発展の鍵は何か (集英社新書) の感想

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参照データ

タイトル貧困の克服―アジア発展の鍵は何か (集英社新書)
発売日販売日未定
製作者アマルティア セン
販売元集英社
JANコード9784087201277
カテゴリ » ジャンル別 » 人文・思想 » 哲学・思想

購入者の感想

アマルティア・センのノーベル経済学賞受賞(1998)前後数年間の講演4本をまとめたもの。難しい論文ではなく、講演の翻訳なので一般人にも読みやすい。

 一本目が本書のメインで、アジア通貨危機の2年後の1999年、シンガポールでの講演。
 日本や東アジア、東南アジアの経済発展は、教育(識字率向上)等のエンタイトルメントがあったからこそ、経済改革(市場経済)がうまく機能したと述べる。しかし、経済は成長ばかりではなく悪化もすることもあるのであり、しかも悪化の被害は一様ではなく、最も弱い人々にしわ寄せされる(=飢饉は社会のごく一部でしか起きない)。したがって、「人間の安全保障」が重要になるわけだが、これは経済のパイが拡大する中での「公正な所得分配」とは異なるというのである。経済が悪化する状況下では、民主主義が機能していないと、困窮者の異議申立てが政権に届かないからである。そして、アジアの開発独裁で言われた「アジアには西欧民主主義とは異なる価値観(権威主義)がある」という主張は誤りだとセンは主張する。

 二本目は1997年、ニューヨークでの講演。リー・クアンユーが主張した「アジア的価値」について、紀元前のアショーカ大王やムガール帝国の皇帝たちを例に出しながら、批判的に論ずる。

 三本目は1999年、ニューデリーでの講演。二本目と似ているが、特に「民主主義の哲学」について述べている。

 四本目は2000年、東京での講演で、「人間の安全保障」について述べている。UNDPが最初に唱え、日本政府としては故小渕首相の1998年演説で初めて採り上げた。センは一本目の講演でも小渕首相について言及している。センの考えに合っているとはいえ、日本にしてはインパクトのある演説だったのだろう。

 
 先ず、本書について、私は「★印」をさらに5つ追加したいぐらいである。それほど素晴らしい内容の講演集である。この新書は1997年から2000年にかけて行った4本の講演論文をオリジナル編集したもので、アマルティア・セン博士の卓絶した政治=経済哲学がよく反映されており、博士の思想に初めて触れる人には最適の入門書と考える。なお、本書においても当然、「潜在能力(capability)」など博士の思索に基づく主要な概念が鏤められているが、「人間の安全保障(Human Security)」に関しては、2006年1月、同名の書(集英社新書)が出版されており、そちらの小論集で深めることが出来るだろう。

 さて本書では、例えば、市民的自由(権利、―からの自由)、政治的自由(権利、―への自由)と民主主義が人間にとって「普遍的価値(universal value)」をもつものであることを説述し(これらは他書で、厳密に論証されている)、これらの諸権利が飢饉や貧困を始め「経済的・社会的災害全般を防止する積極的な役割を担う」(本文)ことを訴えている。取り分け、民主主義の価値は「地域性がない」(同)とし、東南アジアの一部指導者などが語る権威等に偏重した「アジア的価値(asian value)」を鎧袖一触するとともに、自由や寛容の精神が決して西欧の専売特許でないことも、インド等の歴史を遡行しつつ強調するなどしている。加えて、セン博士の人と思想をコンパクトにまとめ上げた訳者の大石りらさんの解説が非常に良く、見事な光彩を放っているのが本書の特徴だ。

 最後に、この講演論文は新書版で読みやすく、特に高校生や大学生には、アジア初のノーベル経済学賞受賞者(1998年度)で、現代アジア最良の知識人と言って良いセン博士の嶄然とした思想を是非感じとってもらいたいと願っている。 

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