The Antidepressant Era の感想
参照データ
タイトル | The Antidepressant Era |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | David Healy |
販売元 | Harvard University Press |
JANコード | 9780674039575 |
カテゴリ | 洋書 » Subjects » Science » History & Philosophy |
購入者の感想
話は、1950年代の世界最初の向精神薬であるクロルプロマジンの発見から始まり、現代のSSRI,SNRIに至る壮大な抗うつ薬の栄枯盛衰の歴史が描かれている。簡単に言えばその「史観」が面白いのである。例えば、クロルプロマジンは統合失調症の特効薬として始めて歴史に登場したものだと多くの医学生は習っているはずであるが、どっこい、それはべつに「抗うつ薬」でもよかったと筆者は解析する。当時の薬物療法は「精神病理学」的に適切かどうか、つまり薬効が病理学的な説明モデルと合致するかでその適応が決まった。また売る側の論理もあった。つまり、研究者、製薬会社、精神病理学的理屈、社会背景、薬を使う医師たちの「思わく」が微妙に影響しあいながら薬の性格は決められていったとのことである。そして、その原理は(精神病理学的理屈は影を潜めたものの)現代の抗うつ薬においても変わらないと筆者は言う。
聞けばなるほどそうかとは思うものの、私たちはなんと薬というものにステレオタイプな考え方をもっていることかと詠嘆させられる。また、そのステレオタイプ思考は操作され、作られたものである。別の言葉で言えば「時代の期待」でもある。
この本を読むとそういう視点が山ほどインプットされる。抗うつ薬の発見者はクーンかクラインかという判定はまだつきかねているらしい。しかし、どちらか一人が主流であれば抗うつ薬の概念はまた随分と違ったものになっていただろうということも教えられる。
つまり、当たり前に使っている抗うつ薬は「抗うつ薬」と規定された歴史があり、なおかつ今脚光を浴びているSSRI(選択的セロトニン再吸収阻害薬)も「抗うつ薬」とは言っているものの「抗不安薬」でも実は構わないかもしれないという舞台裏が見える。また、用量も用法も医師と製薬会社の作った「文化」であるという側面も浮かび上がってくる。筆者は極めて冷静で緻密な考察者である反面、この「文化」に対応するにはすべての薬を市販薬にしてはどうかという大胆な発言もする。消費者が一番よい「使い方」と「飲み方」を決めてくれるというのである。こんな視点にも一目置かされる。この本がかくまで面白いのは良い訳と訳者の一人田島治医師の薬理に関する深い造詣とも関わっていると感じる。書評をすることの冥利をしみじみ味わえる一冊である。
聞けばなるほどそうかとは思うものの、私たちはなんと薬というものにステレオタイプな考え方をもっていることかと詠嘆させられる。また、そのステレオタイプ思考は操作され、作られたものである。別の言葉で言えば「時代の期待」でもある。
この本を読むとそういう視点が山ほどインプットされる。抗うつ薬の発見者はクーンかクラインかという判定はまだつきかねているらしい。しかし、どちらか一人が主流であれば抗うつ薬の概念はまた随分と違ったものになっていただろうということも教えられる。
つまり、当たり前に使っている抗うつ薬は「抗うつ薬」と規定された歴史があり、なおかつ今脚光を浴びているSSRI(選択的セロトニン再吸収阻害薬)も「抗うつ薬」とは言っているものの「抗不安薬」でも実は構わないかもしれないという舞台裏が見える。また、用量も用法も医師と製薬会社の作った「文化」であるという側面も浮かび上がってくる。筆者は極めて冷静で緻密な考察者である反面、この「文化」に対応するにはすべての薬を市販薬にしてはどうかという大胆な発言もする。消費者が一番よい「使い方」と「飲み方」を決めてくれるというのである。こんな視点にも一目置かされる。この本がかくまで面白いのは良い訳と訳者の一人田島治医師の薬理に関する深い造詣とも関わっていると感じる。書評をすることの冥利をしみじみ味わえる一冊である。