アメリカ大陸のナチ文学 (ボラーニョ・コレクション) の感想

アマゾンで購入する

参照データ

タイトルアメリカ大陸のナチ文学 (ボラーニョ・コレクション)
発売日販売日未定
製作者ロベルト・ボラーニョ
販売元白水社
JANコード9784560092651
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » スペイン文学

購入者の感想

 「架空の極右作家事典」という形式をとった中編小説。事典であるので、主観を排した(架空の)事実をひたすら列挙していく形で進んで行く。またそれらの作品の内容説明はあれど引用は一切ない。最初の数ページを読んだときは今までと違うタイプの短編集みたいなものかなと思うかもしれないが、読み進めるうちにその印象は覆されていく。これは短編集ではなく、紛れもなく「小説」だ。

 売れない作家、謎の魔術を行うサッカー選手、インドの秘境帰りのカメラマン、屍姦マニア…ボラーニョの短編集はどちらかと言うと日陰を好むような一癖ある登場人物たちと、彼らが抱える一見ささいな、しかし圧倒的な闇を描いたものだった。本書でも、負けず劣らずの一癖も二癖もある作家・作品たちが多数登場する。巨漢の女流作家からアルゼンチンサッカーの熱狂的サポーターまで多種多様な30人を越す作家たちは、ボラーニョが本来毛嫌いするはずの「極右作家」とはいえ、どこか憎めない人物ばかり。そして至る所に散りばめられたブラックジョーク。事典形式という制限を設けながらも、これだけ多くの架空の豊かな人生を作り上げ、それぞれのラストで抜群の余韻を残させる筆力は、ひたすら驚かされるばかりだ。

 ここまでならまだ短編集と言えたかもしれない。しかし、最後の「忌わしきラミレス=ホフマン」によって一気にひっくり返される。ここで流れをぶった切るかのように突然ボラーニョという名前の一人称の語り手が登場し、しかも普通の物語形式で進行するのだ。この章によって今までの作家列伝と巻末の作品・用語一覧が一括りの「小説」へと昇華する。事典形式で書いた意図と狙いは、極右文学に対するボラーニョ自身の評価は、そもそも作家・作品たちは本当に架空だったのか…。そういった疑問も「忌わしきラミレス=ホフマン」で言及されている。是非、本書を最後まで読んで確認して欲しい。

 実在の作家や作品もたくさん登場するので、南米の政治史・南米文学に精通しているとより深く楽しめるのは想像に難くないが、あまり気にしなくていいかもしれない。そうでなくても本書の核心部は十分に理解できるのではないかと思う。

あなたの感想と評価

コメント欄

関連商品の価格と中古

アメリカ大陸のナチ文学 (ボラーニョ・コレクション)

アマゾンで購入する
白水社から発売されたロベルト・ボラーニョのアメリカ大陸のナチ文学 (ボラーニョ・コレクション)(JAN:9784560092651)の感想と評価
2017 - copyright© みんこみゅ - アマゾン商品の感想と評価 all rights reserved.