悪について (岩波新書) の感想

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参照データ

タイトル悪について (岩波新書)
発売日販売日未定
製作者中島 義道
販売元岩波書店
JANコード9784004309352
カテゴリ人文・思想 » 哲学・思想 » 西洋思想 » 西洋哲学入門

購入者の感想

 カント倫理学最良の入門書である。「厳格主義」として知られるカントの倫理学を、いわば、「裏側から」かつ体系的に説明してくれている。
 特に、第2章「自己愛」は圧巻である。ここで著者は、カントの『人間学』の冒頭で「エゴイズムについて」というテーマを扱っていることを述べ、カントが『純粋理性批判』だの『実践理性批判』だのといった著書名から連想されるような「理性的な」人間像をもっていたわけではないことを説明する。むしろカントは、人間がいかに自己愛=エゴイズムに支配され、抜け切れず、もがいて生きていかなければならないか、人間のなまのどろどろした部分をよく観察していた、ということであろう。
 「人間が『私』という言葉によってみずからを語り始める日から、彼はその愛する自己を許される限り押し出し、エゴイズムはとどまるところなく前進する。それは、あからさまにではなく(なぜなら、あからさまだと他人のエゴイズムと対立するから)、一見自己否定的であり謙虚を装うことによって、いっそう確実に他人の判断において自己に卓越した価値を与えるために、身を隠して前進するのである。」(『人間学』)
 また、個人的な感想としては、著者のこの語り口にも共感を覚えた。
「人間は、自ら完全になろうとして刻苦精励し、他人の幸福を望み、他人に親切にすればするほど、必然的に悪に陥る。・・・悪はすべての『善くあろう』という意志の中に溶け込み、社会を『善くしよう』という欲求の中に紛れ込む。・・・われわれは『善くあろう』ということを完全に放棄して、魯鈍な羊の群れに戻ることもできない。まさに出口なしである。われわれは(どんな極悪人も、どんな聖者のような人も)『道徳の学校』の落第生でありいくら努力しても優等生になれないのだ」
 著者(およびカント)と共に言えば、われわれは、この人間にすまう「悪」を真摯にうけとめ悩み苦しんで生きるほかなさそうだ。これこそが「よくいきる」ことにほかならないのかも知れない。

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