あかんやつら 東映京都撮影所血風録 の感想

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参照データ

タイトルあかんやつら 東映京都撮影所血風録
発売日販売日未定
製作者春日 太一
販売元文藝春秋
JANコード9784163768106
カテゴリジャンル別 » エンターテイメント » 演劇・舞台 » 演劇

購入者の感想

 以前から筆者の名前はラジオと週刊文春のDVDコラムで知っていたのでこの本の事も認識していて早く買わなければ、と気にかけていた。

 直接のきっかけは2018年2月5日~2月16日まで二週にわたって文化放送『武田鉄矢~今朝の三枚おろし』で紹介していたことがきっかけだった。17年夏、BSTBSで『水戸黄門』が放送され、水戸光圀を演じた武田氏が東映京都撮影所で感じた疑問がこの本で解消されたという。その本で紹介されたエピソードも抜群に面白く早速注文。

 マキノ光雄が家業の映画を大きくするために金策と映画の制作に東奔西走し、急遽亡くなったマキノの跡を継ぐ形で岡田茂が京都撮影所を回していく。その制作過程はもう無茶苦茶。いかにも「昭和」なエピソード満載で映画の魅力に取りつかれた人間達のそのアツいエピソードは思わず笑ってしまう。

 また筆者の筆のせいかエピソードが抜群に面白くスピード感があるためグイグイ引き込まれて最後まで読了した。

 ただ読み終えてアツい人々とは別に『東映京都撮影所』という会社自体が日本の縮図のように感じてきた。一回ビジネスモデルが当たるとそれから抜け出せず業績が下降して手が打てない。そのうち自前で人を育てられなくなり外注か下請けの仕事しか出来なくなる、というのは現代の日本にも当てはまるなと痛感。

「時代劇研究家」の肩書も持つ著者の「東映京都撮影所」の本ではあるが、もちろん「チャンバラ」の周辺だけを論じた
ものではなく、娯楽時代劇黄金期を経て、任侠→ポルノ→実録→混沌期(宇宙からのメッセージ!)→文芸路線と
目まぐるしく作風を変えながら現在に至る姿を描いた京撮史=東映通史であり映画産業興亡史である。

当時のスターやスタッフの回顧録の類で、断片的、あるいは私的に京都撮影所が語られる機会は少なくなかったが、
客観的視点で時系列を追い、比較的コンパクトに「東洋一の撮影所」の栄枯盛衰を俯瞰できるのが本書の長所だろう。
個人的には、これまでの当事者の述懐では言葉を濁してサラッと流されがちであった
・岡田茂の東撮への左遷→東撮の改革半ばでの京撮復帰の経緯
・石井輝男の「異常性愛路線」に助監督達が反旗を翻す契機となった事件(これはほんとにヒドイ…)
・いわゆる「大川ジュニア」争議の顛末
・実録路線以降の「企画屋」としての岡田茂の神通力のどうしようもない衰え
あたりが簡潔ながら赤裸々に描かれているのが興味深かった。

また、東映の舞台裏といえば何をさておき常軌を逸したボンクラエピソードの数々だが、そこはもう「若山富三郎」の項が
設けられていることでお察しいただけるだろう。それ以外にも著者の取材による豪快かつ底の抜けた挿話が随所にちりばめ
られていて、これだけでも客を満腹にさせる分量である。(欲をいえば「殴りあって親友に」パターンの男性的なイイ話
だけでなく、外部の出演者・スタッフを恐れさせた京撮の粘着質な「イヤな話」ももう少し読みたかった気がするが…)

とにかく侠気と狂気とマヌケが同居する往年の東映映画のグルーヴそのままにバックステージを描破した快著といえる。
時代劇・ヤクザ映画ファンのみならず、同社製作のテレビドラマや変身ヒーロー物にまで脈々と流れ続ける「東映イズム」の
源流を知るうえで、その方面のファンの方にもお薦めしたい。

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