「読まなくてもいい本」の読書案内 ――知の最前線を5日間で探検する の感想

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タイトル「読まなくてもいい本」の読書案内 ――知の最前線を5日間で探検する
発売日2015-11-25
製作者橘玲
販売元筑摩書房
JANコード登録されていません
カテゴリジャンル別 » 人文・思想 » 本・図書館 » 読書法

購入者の感想

この人の本はパーペチュアルトラベラー以来たくさん読んでる。
間違いなく頭のいい人だと思うし、実用的な部分では参考になることも多いのだけれど、経済やお金の話を離れて少し広い視野が必要な話になると、やはり教養のなさがボトルネックになっていて居酒屋のオヤジ談義レベルになってしまう。居酒屋のオヤジやオヤジ予備軍の若者は教養がないから合理的で論理的(に見える)シンプルな話に感心しちゃうんだろうけど。教養がないとそのレベルでしか考えられないから。

デカルトの哲学原理の物理なんて間違ってたりするし、ベルクソンの自然科学も今は時代遅れだけれど、価値がないかというと全くそんなことはない。(もちろん価値のない古典も多い)
この本を読んで感心してそうな人たちは藤沢和希や勝間やホリエモン読者だったりするんだろうけど、たとえその結果が(今見て)間違いだったとしても、彼らの一万倍の本を読んで100倍くらい深くものを考えてきた人の思考過程を追跡することが無価値なわけがないというか、それこそが本を読む意味なのに。
複雑系や生物も物理も重要だが、哲学も文学も間違いなく重要。後者は読んで考えないとわからなのだけれど、ハイゼンベルグもカウフマンもみんな遥かに深い人文的教養を持っていたし、それが彼らの研究につながっている。
これは「教養のなさ」に引け目を感じる人がそのルサンチマンから読む本なんだろうけど、時間をかけて哲学や思想を読んだ方がいいよ。

ここ半世紀で起きた知の大きな変化や潮流を見渡すことができれば、古いパラダイムで書かれた“名著”に貴重な時間をかけずに済む…ということで、複雑系や進化心理学、進化生物学、行動ゲーム理論、脳科学などの知の最前線を横断する本です。各章末にはブックガイドが付いていて、読むべき本の読書案内がむしろ充実しています。

人の時間は限られているから(とりあえずは)読まなくてもいいとされているのは、旧来の哲学、心理学、経済学などです。「ぼくが大学時代に一所懸命読んだものは、ぜんぶクズだったのだ!」というソーカル事件をはじめ、自分が学生だったら「それはまず最初に教えてよ」ということが正直ベースで書かれています。

最終章はリベラリズム(平等主義)、リバタリアニズム(自由主義)、コミュニタリアニズム(共同体主義)とそれらの主義を包括することのできるアマルティア・センの「新しい功利主義」についてです。新しい功利主義はテクノロジーを活用するけれど、進化し続ける技術と付き合っていくには、生命倫理などの「新しい哲学」が必要とされ、ここでついに哲学の復活が展望されています。

読書術の体を成しているものの、実際は自然、生命、遺伝、進化、社会、正義から「よりよい未来」までを一連に取り上げた壮大な内容です。

この本で述べられているパラダイム変換を踏まえていない人、
つまり最近の進化人類学の知見を知らない人とは、知的な会話を
交わしても無意味だ、という気にさせられるほどの名著です。
ただ、タイトルがなぁ。もっと堂々と「知の最前線」を謳っても
良かったのでは?

この100年で判明したことで説明付く話が死ぬほど多いから、とりあえずその圧倒的な成果を前提にした話をしよう。ソーカルよろしく「針の上で天使は何人踊れるか 」みたいな確かめようもない衒学的な議論で学問してるふりをするのは止めにしよう。僕らには時間がない。フッサールやデカルトよりまず脳科学の成果を、ドゥルーズより複雑系の成果を前提にしよう。そして、何よりも「説明が付く」という意味では圧倒的な(時に残酷な)進化論をこれからの学問の土台にしよう。そんな感じで本は進んでいく。なるほど、じゃあそれを前提にしてどうするのか、という疑問に応えるように、最終章では橘玲なりの来るべき新しい世界を描いている。橘玲が各所で書いてきた話は多分に含まれているが、それが一つのまとまりをもって視野を開いてくれる感覚を受けた。表紙もタイトルもあまり好きではなかったのだけれど、キャッチーといえばキャッチーなので文句はやめておこう。

人文系の学問の大半がもはや時代遅れになっていること、にもかかわらず胡座をかいて権力を保持しつつ反権力ぶる大学教員への憤りがあとがきで記されているけれど、じゃあ彼が文学などは要らないと思っているかと言えばそれは違うと思う。学生時代に読んでいたドゥルーズを引用し「ここはいま読み返しても、やっぱりカッコいいなぁ」と痺れている。そう、哲学や社会学や現代思想は文学として捉えるべきで、プラグマティックな学問と勘違いしてはならない。例えばニーチェは文学として素晴らしい。だが永劫回帰を訓詁学的にこねくり回して、この世の中に有用な何らかの知見を見出すのは無駄なのだろう。だって、ニーチェが今に生きて複雑系を知っていたら、永劫回帰なんて言わなかっただろうから。

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