ガレージ・パンク (ディスク・ガイド・シリーズ) の感想
参照データ
タイトル | ガレージ・パンク (ディスク・ガイド・シリーズ) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 関口 弘 |
販売元 | シンコーミュージック |
JANコード | 9784401616855 |
カテゴリ | ジャンル別 » エンターテイメント » 音楽 » 海外のロック・ポップス |
購入者の感想
この本が凄いのは、紹介されているアルバムの大半が海賊盤、という点だろう。ガレージ・パンクというものはジャンルというより、ひとつの文化圏であると考えた方がいい。海賊盤を中心に世界が動く、とはつまりマニアが掘り出してきたお宝が世界の共有財産になる、ということだ。マニアによるマニアのための音楽文化がガレージなのだ。文化の特殊性というものをこれほどハッキリと反映させたディスク・ガイドも珍しい。コンピレーションを自主制作するエディターがある種のアーティストとしてリスペクトされる、この文化圏は我が国のドージンシ文化に関心を抱くような社会学者や民俗学者にとっても興味深い生態系を有しているはずである。この本は、どう考えても入手困難であろう盤やら、もっと充実して入手もしやすい盤が出る前の冴えない盤やら、別に名盤というわけではない盤やらと『闇鍋のような』ではなく闇鍋そのものであって、効率の良い買い物のためのガイドブックとして使おうとする者をからかうアンチ・カタログ、という感に痛快さがあり、そこが発売から十年以上経ち、カタログとしての情報的価値が下がってもなお読むに耐える本になっているゆえんである。ちなみに、この本には海外の識者へのアンケートも掲載されているのだが、アメリカ人たちに混じって参加しているひとりの旧ユーゴスラビア人が印象深い。60年代ユーゴのビート・シーンを『ユーゴビート』と定義し発掘と再評価に勤しんでいる『バルカンの黒沢進』らしいのだが、この人物は当然90年代の陰惨なユーゴ分裂劇を体験しているはずで、この人物にとって、ユーゴビートとは、カンボジア人にとってのカンボジアン・ロックがそうであるように、単なるノスタルジーや骨董品趣味では無いはずだ。この人物についてもっと知りたい。