売女の人殺し (ボラーニョ・コレクション) の感想

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タイトル売女の人殺し (ボラーニョ・コレクション)
発売日販売日未定
製作者ロベルト ボラーニョ
販売元白水社
JANコード9784560092620
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » スペイン文学

購入者の感想

「この世を去ったひとたちは誰ひとりとして心穏やかじゃないのよ」とブルュッセルの黒人売春婦はさすらいのチリ人作家へ向かって言う。
「今の時代も、いつの時代もね」

必ずしも自ら進んで選んだわけでもないのに事情があって流民の生活を強いられている不本意な世界市民の根無し草的な日常感覚と存在の耐えられない軽さ

具体的な処方薬もないまま放置されている古傷の疼きと手応えのないまま揮発してゆく蜃気楼のような現在

定まらない未来への不安と手綱のきかなくなった人生に対して日に日に深まってゆく諦念

国境線もなければ辺際もない混沌とした世界の一角で、亡霊のように輪郭もなく寄る辺もない人々の間に刹那だけ交わされる仮初の親密さとどこへも行き着かない宙吊り状態の幕引き

パリで、バルセロナで、ブルュッセルで、メキシコのリゾート地で、通りすがりの砂漠の町で・・・・
宵闇の訪れとともにアヴァンチュールの予感にふと古馴染みの欲望が頭をもたげることもあるが根本的に自分の人生の空隙はいつまでたっても充たされないことは変わりがない。

ジョイスやレイ・カヴァーの最良の短編に通じる純度の高いエピファニーの瞬間のうちに、
日々の倦怠と欺瞞の鬱々とした雲塊を縫って不意に差し込んでくるセピア色の真実の光には、
中南米の特異な歴史性から昇華されて存在の最も深い根っこの部分へ沁み入ってくる哀惜と痛切さが渦巻いている。

なかんずく、自意識過剰で決して世渡り上手とはいえない主人公が行く先々で宿命の染みのように見出す人間関係の迷いや断絶感、
故郷というものがなくなり、人生の方向性が見えなくなったことで覚える深い喪失感やメランコリーといったものは、
この作家ならではの霊妙な息づかいと埃の微粒まで澄み切ったヴィションで色づけられており、
まさにわたしがボラーニョの書くものはたとえチラシの裏に殴り書きされた呪詛や泣き言であっても見逃すまいと決心した理由のひとつであります。

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