哺乳類誕生 乳の獲得と進化の謎 (ブルーバックス) の感想

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参照データ

タイトル哺乳類誕生 乳の獲得と進化の謎 (ブルーバックス)
発売日販売日未定
製作者酒井 仙吉
販売元講談社
JANコード9784062578981
カテゴリジャンル別 » 科学・テクノロジー » 生物・バイオテクノロジー » 動物学

購入者の感想

哺乳類の起源と進化が書かれた本を読みたいと思い探したところ、この10年くらいで出版されたそういった分野の本は意外と少なく、本書くらいしか選択肢がなかったので購入した。読んでみると、興味深い内容がたくさん盛り込まれていたが、なんとも文章が読みにくい。著者は、獣医学の大学教授として家畜育種学を教え、泌乳生理学を研究していたかたである。だから進化学を専門としていたわけではなく、大学での講義や研究とは別に、著者が勉強して得た知識がたくさん披露されている。「はじめに」で、「理系の研究者は論文作成で結果を正確に文章化することに気を遣い、分かりやすさを重視することはほとんどない。筆者も例外でなかったようで、その性癖にブルーバックス出版部、なかでも熊川佳子さんからの助言で気づくことが多かった。努力したつもりだが、読みやすさについては読者の皆様に判断を仰ぐことにする。」と述べている。私見ではあるが、分かりやすさを重視することは理系の文章としてとても大切なことであるし、それ以前に、内容が正確に文章化されていないのではないか、という疑念を感じることが多かった。事実の記述のあとに、筆者のコメントのような文章が入るのだが、意味不明の文章が散見された。内容としてはおもしろいことがたくさん書かれているので、もったいない話ではある。進化全般や人類の進化を書くすぐれた書き手はたくさんいそうだが、哺乳類の進化の分野は意外とニッチなのかもしれない。

本書は下記のような構成になっている。
「第一部 遺伝の仕組みにあった進化の根源」では、進化全般のメカニズムを遺伝学から説明している。
「第二部 新天地を求めた動物」では、水中で生まれた動物が水中から陸上へ移動したいきさつや、鳥類や哺乳類の出現と進化について説明している。
「第三部 進化の究極-乳腺と泌乳」では、著者の専門である乳と乳腺についてくわしく解説している。

哺乳類の進化について、とくに興味をもったポイントをまとめてみた。
・哺乳類の最大の特徴は胎盤と乳腺にある。哺乳類は最初は卵生であり、有袋類で初めて胎生となり子を出産、乳頭が出現した。

四分の一を占める「第1部 遺伝の仕組みにあった進化の根源」はホックス遺伝子の重要性にも触れているが,基本的には高校生物の「生殖」「遺伝」の復習である。この本に必須の記述だったのかが疑問である。ただし,減数分裂で卵細胞が1個しかできないのは「染色体異常の娘細胞を排除する仕組みで,実際、極体には染色体異常が多い」(惜しいことにデータの記述が無い)「精子形成の際にも異常は起こるが,正常の精子が多数なので問題は起こりにくい」とか,「不活化されたX染色体上でもY染色体上にある相同の遺伝子は不活化されないので活性化する遺伝子の数は雌雄で等しい」といった「なるほど」と思える記述も散見する。総じて第1部の記述は新旧ちぐはぐな感は否めない。いちばん問題があるのは,著者はラマルク説に現代的な意義を認めていることである(最終章に「ラマルク説の現代的意義」がある)。例えば,恐竜が急速に独自の進化をとげたのは「ラマルク説では用不用および獲得形質の遺伝、ダーウィン説では隔離と自然淘汰が適者を選んだ結果である」(p.70)という記述になる。後述するが著者のラマルク説の解釈は誤解に基づいている。「小さな役割を果たす遺伝子が多量にあったことが家畜の改良を早く進めることになった」という評価がされていて,こちらは納得できる。
  「第2部 新天地を求めた動物」は陸棲や鳥類・哺乳類の特徴と進化の紹介,「第3部 進化の究極 乳腺と泌乳」は哺乳類の特異性に焦点を当てたものだ。専門性に富んでいて面白い。ただ進化に関しては定向進化的観点,用不用説あるいは正の自然淘汰(つまり適応的な進化)万能論で記述されている。
  著者の論理展開はこうである。「潜在能力が個体によって異なる」「潜在能力の違いは遺伝子による」したがって,「遺伝による力は内在する」し,良い能力なら遺伝し進化をもたらす。ラマルク説の個体には内在する力があるという原則は正しい。家畜の改良は遺伝する潜在能力があったから可能だった。「獲得形質、つまり潜在能力の進化」である。潜在能力と無関係な自然淘汰だけでは家畜のような進化は起こらない。一見正しく聞こえるかもしれないが,奇妙な展開である。

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講談社から発売された酒井 仙吉の哺乳類誕生 乳の獲得と進化の謎 (ブルーバックス)(JAN:9784062578981)の感想と評価
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