ヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書) の感想

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参照データ

タイトルヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書)
発売日2015-06-26
製作者石田勇治
販売元講談社
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カテゴリ » ジャンル別 » 歴史・地理 » 歴史学

購入者の感想

政権奪取の過程とホロコーストに焦点を当てた、ナチの歴史の概説書。
新書としての限界はあるが良く整理されており、全体を俯瞰するのに適している。

事実として目新しい点は少ないが、ナチの失業対策に関する解説は勉強になった。

ナチが政権掌握後数年にして失業率を大幅に引き下げることができ理由を、私は以下のように理解していた。
(1)アウトバーン建設を中心とした公共事業の大盤振る舞い
(2)ユダヤ人を職業から閉め出すことによって、その分の仕事を失業者に分配したこと

本書では、以下のような理由を追加する。
(3)女性を家庭に戻す政策を強力に推進して女性の就業者を減らし、男性失業者に職を分配したこと
(4)徴兵制の復活により若い男性を軍に吸収し、統計上、失業率の分母を減らしたこと

アウトバーンの建設などは失業対策上の実効果は小さく、むしろ宣伝効果の方が大きかったそうである。

この部分だけでも、読む価値があると感じる。

昨年の荻上チキさんのラジオに著者である石田さんはナチスドイツについての解説をしていました。この本はあとがきにも書いてあるようにそのラジオでの解説がきっかけとなって執筆されたとなっています。確かにそのラジオを記憶を思い出してみるとこの本ほど詳細とはまではいきませんが、このような内容が語られていたと思います。

その荻上チキさんのラジオは昨年の麻生太郎蔵相のナチスドイツを見習えばという失言を受けてのラジオで、では、そのナチスドイツというものはどういうもので、どのようなきっかけで誕生したのか。その点について石田さんは大変よくわかりやすく語っていました。

石田さんによると、この本の主人公で第二次世界大戦やホロコーストなどの悲劇を引き起こすことになるヒトラーというものはごく普通の男で怠惰で美術学校の受験にも失敗した男であったと。その男があるとき自分には弁論の才能に目覚め、所属していたナチ党の中で地位を確立していくことになります。やがて、ワイマール共和国時代のドイツ国内に蔓延する閉塞感の中に、ナチ党を支持する勢力が次第に大きくなっていきます。
ナチ党が政権を担うきっかけとなる部分では、ロシア革命の影響により共産党の勢力拡大を恐れた保守勢力が、ナチ党と協力して政権を作りだし、やがて、ナチ党、ヒトラーが独裁体制を築いていってしまう。

そのナチ党が大きくなっていく過程というものも詳細に語られていますが、偉大な哲学者や文学者、音楽家、進んだ科学技術を生み出してきた先進国であったあのドイツの国民がこのような狂信的な政党に熱狂してくというのは非常に不思議で、怖さも感じました。
ナチ党への支持というのもそうですが、ただの平凡な男であったヒトラーにこれほどまで熱狂したのはなぜなのでしょうか。

著者はその点について、国の閉塞状況、ユダヤ人に代表される弱者への差別意識と優越感。それらが、大きく影響していたのではないかと分析しています。それでも不思議な気持ちは晴れません。なぜ、あんなちょびひげを生やした、それほど魅力も感じない男に国民は支持をしたのか。

ヒトラーとナチスがなぜ立党10年ほどでドイツを掌握できたのか、政権掌握後ドイツのナチ化がなぜ進んだのか、ユダヤ人を絶滅しようとしたのか。本書は、ヒトラーの入党から党内抗争の勝利、その内政を説明しながら、ナチス・ドイツへ日本人が抱く疑問に答えている。

ドイツ帝国崩壊を受けて成立したワイマール体制は、大恐慌以降全くの機能不全に陥っていたことを著者は指摘する。30年には98日だった国会会期は32年にはわずか14日になり、議会通過法案も30年の98件が32年には5件だけで、議会可決が不要な大統領緊急令が乱発されており、首相も議会勢力に関係なく大統領が指名するので議会の支持を受けられず、多数派工作に終始することになった。1932年の選挙で躍進したときも全議席の3分の1しかなく、党勢拡大も足踏みしていたのに、翌年ヒンデンブルクが首相指名してしまったために、ドイツ掌握が決定的になってしまった。

政権掌握まで、ナチスは闘う抗議政党だった。街頭で共産党に乱闘を仕掛けるなどしてメディアに名を売る。ヒトラーは自身を「第一次大戦で名誉の負傷を負った英雄」と位置付けることで、ベルサイユ条約の破棄を訴えドイツ民族主義者の支持を取り付けた。政権掌握後は500万を超えた失業者も6年で10分の1以下にした。これにはトリックがあり、男性には徴兵制を再開し、女性は結婚退職・求職終了へ強く政策誘導を行って求職者自体を減らしたことが大きい。省庁や地方のトップを次々とナチス指導者に与え、参政権を抑え込んだことでナチ化が進んだ。

ユダヤ人には当初、公職追放や財産没収から始まった。やがて国外追放が中心になった。ポーランド侵攻後はポーランドへ、独ソ戦後はソ連領に強制移住させようとしたがモスクワ目前で戦線が膠着し、進撃する軍を追う親衛隊治安部隊が現地で勝手に虐殺を始めたことなどから、親衛隊保安長官のハイドリヒが中心になり、追放から虐殺への方針転換が行われた。

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