言魂 の感想
参照データ
タイトル | 言魂 |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 石牟礼 道子 |
販売元 | 藤原書店 |
JANコード | 9784894346321 |
カテゴリ | ジャンル別 » 人文・思想 » 哲学・思想 » 哲学 |
購入者の感想
免疫学の権威である多田氏と水俣を見つめ続ける作家・石牟礼氏の往復書簡を纏めたものですが、本当に素晴らしい本に出会えたと感動しています。お二人はそれぞれ名をなした方々ですが、同時にそれぞれに地獄を見、体験してきた方々でもあります。そのお二方の書簡による交流が非常に静かな、そして極めて上質な日本語でなされています。ひたむきな思いや幾つもの悲しみと身を裂くような怒りが込められているのですが、少なくとも文章上では声高に叫んでいるわけではありません。それなのにこれだけ胸に迫るものがあるのは、日本語が本来持つ力であり、お二方の人格なのでしょう。それにしても水俣に見るこの国の行政は、「棄民」と呼ぶ以外にない凄まじい弱者切り捨てであり、水俣のみならず、多田氏自らが怒る医療制度改革にも表れています。本当にこの国はどこへ行こうとしているのか?はらわたがねじ切れるほどの怒りを感じます。しかし、そんな状況下にあって、どうしてこれほどまでに優しさに満ちた文章が書けるのか。いやいや、きっと身を削る思いで書いておられるのだろうと思いつつも、その優しさに私は救われる思いです。挿入される詩やお二方それぞれがお互いに気遣いあうその言葉に涙します。特に石牟礼氏の最後の書簡の最後の言葉に、滂沱のごとく流れる涙を抑えることは不可能でした。ここ数年で読んだ本の中で、というより、一生手許に置いておきたい本に巡り合えて本当に幸せです。