世阿弥の世界 (集英社新書) の感想

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世阿弥に関する本はいくつか読み、今さら能の入門書でもないとは思ったのですが、結局手に取ることと相成りました。新書という体裁なのですが、読後感はというと、これがなかなか一筋縄ではいかない重厚な作品に出合ったという印象でした。著者の強みはまずは長い能鑑賞の経験です。様々な演者による一瞬の輝きともいうべき能作品を見続けた著者の経験は、様々な能関連の研究や作品の渉猟と組み合わされることにより、見事な批評の域に達しているのです。世阿弥を取り扱ったあまたの文学作品も、それぞれがユニークな角度から照らし出す世阿弥の様々な側面という観点から見事に整理されていきます。そして著者の熱情を抑えた独特の語りのスタイルです。世阿弥についての様々な見方をバランスよく紹介しながらも、最後は自身の美的哲学に基づく解釈がさらりと提示されており、読後感もさわやかなものです。佐渡配流自作自演説も著者にかかると、「罪なくして配所の月を見る。まさに老後の花の孤高、秘すれば花の実践ではなかったか」と語られます。著者の結語ともいうべき、「現代は能という「様式」の先鋭さに改めて驚いているだけではあるまいか」の持つ意味は深いですね。久しぶりに能楽堂に行きたくなりました、