ミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈下〉 (ちくま学芸文庫) の感想

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参照データ

タイトルミメーシス―ヨーロッパ文学における現実描写〈下〉 (ちくま学芸文庫)
発売日販売日未定
製作者エーリッヒ アウエルバッハ
販売元筑摩書房
JANコード9784480081148
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 評論・文学研究 » 日本文学研究

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 下巻に至って、上巻で繰り返し語られていた、ホメロスの叙事詩から始まった流れと旧約聖書から始まった流れの二つとは異質の傾向が強く現れてくる。それは中世が終わり、人間の生が終局的にキリスト教の信仰に収斂されることがなくなった為に、一人一人が目の前の現実に神の媒介無しで晒されることになった状況をどう捉え、描写するかというテーマで、11章のラブレー、12章のモンテーニュ、13章のシェークスピア、14章のセルヴァンテス、といった風に各時代の代表的な作家・散文家のテクストを引用しながら、上巻と同様の方法で分析を加えていく。各章ごとに必ず書き分けられているのは、同時代の政治的・社会的・経済的・階級的現実に対して文芸作品がどんな態度を示しているかだ。ある時代ではパロディの素材として使用したり、ある時代では低俗なものとして無視したり、ある時代では過度に美化し理想化し、ある時代では救いのない状況として避けて通ったり、ある時代ではその感覚的印象を幻想的に描いたり、ある時代では純粋に把握し記述する対象として客観的に描写したり、ある時代では描写することでその変革を促すべき状況として捉えられ、ある時代では人が生きている、広大な時間にまたがる人類全体の生のありさまに至る契機となったり。そんなさまざまの時代ごとにみられる作家たちの振る舞いは、現代に生きている私たちが取るそれぞれの立場上の行動にも見られるものだ。その中で、近代リアリズムは、時の流れに沿って常に変わっていく社会の諸勢力の力関係と、その只中で生きる一人一人の人間の生についての歴史性への認識の下に生まれた、というアイディアは、やたら多用される「リアル」「リアリズム」という言葉に含まれる意味合いを拡げてくれるものだった。そしてこのようなテーゼも、個々の小説・散文中の文章を引用し、分析したあとに述べられる。

 最終章、モダニズム文学に就いての論考の終わりに、アウエルバッハは世界の均質化・単純化に就いて予言めいた言葉を残している。ギー・ドゥボールが言う「スペクタクルの社会」に似た近未来を想起していて、残念ながらそれは成就されてしまったかのようだ。

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