バランスシート不況下の世界経済 (一般書) の感想

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参照データ

タイトルバランスシート不況下の世界経済 (一般書)
発売日販売日未定
製作者リチャード クー
販売元徳間書店
JANコード9784198637224
カテゴリビジネス・経済 » 経済学・経済事情 » 各国経済事情 » 世界

購入者の感想

クー氏の近作。480頁余のヴォリュームだが叙述は丁寧、論旨は明快。経済書によくある初学者を煙に巻く暗黙の前提などは無く、誰でも一気に読める優れた啓蒙書である。

80年代後半、日本は、弱体化したアメリカによって強要された円高(85年プラザ合意)をモノともせずバブルへの道をひた走った。日本的経営を称揚した「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が出版され、三菱地所はマンハッタンの心臓部ロックフェラーセンターにまで不動産取得の手を伸ばした。しかしバブル景気は91年2月をピークとして崩壊し「失われた20年」が始まった。日本経済は今なおこのデフレ状態から脱却できていない。

クー氏は何も特別の理論や仮説を主張している訳ではない。云わんとするところは、このバブル崩壊がもたらした国富(国民資本)損失の巨大さであり、経営者を捉えた戦慄の体験が尋常なものでなく、このトラウマから回復するには20年やそこいらの年月はかかって当然というものだ。

バブル崩壊後の20年間(1991−2011)で、民間企業が失った富(土地・株式・ゴルフ会員権などの資産価値下落)はざっと1500兆円以上、実にGNPの3年分に相当する。(ちなみに29年世界恐慌でアメリカが失った国富は、ピーク時29年GNPの一年分と推計されることから、平成バブル崩壊で日本がこうむったダメージの巨大さはイメージできよう)

この間日銀はマネタリーベースを増やし続け、ゼロ金利政策を継続した。実にマネー流動性は5倍に増えた。にもかかわらず民間が使用するためのマネーサプライはこの間わずかに84%(2倍以下)しか増えず、民間向け銀行貸し出しは全く増えなかった。なぜか?

巨大な損失を抱えた企業は、秘密裡にそして必死に日々の入金(キャッシュ・フロー)を貯めては借金返済に充てたのである。ゼロ金利下にもかかわらず、新規投資などとんでもない、まずは倒産を回避すべく銀行向け借金返済に企業は一斉に走ったのである。注入された日銀マネーは企業貸し出しには向かわず、代わって銀行の国債購入が膨れ上がった。我が国の国債残高はこの20年間に4倍増え、平成25年度末で750兆円、GDPの150%超となっている。

 バランスシート不況という概念は著者の前書で勉強して感銘を受けていましたが、本書もそのフレームワークを使って世界経済を明快に解説されていると思います。本書を読んで改めて思うのは、物事を単一面から見るのではなく全体的に見ることの大事さ。例えばある国の財政赤字だけを見るのではなく国全体としての資産・負債を見ると、実はスペインやイタリアには財政赤字以上に民間貯蓄が国内にある、という事実。つまり財政赤字だけを見てそれが巨額だからまずいと騒ぐのではなく、国内の民間貯蓄も含めた全体像で見よということです。またバランスシート不況についても経済の好不況を普通のエコノミストはGDP統計だけを見て議論しますが、これは国の損益計算書に相当するもので、クーさんの指摘は、バランスシート(貸借対照表)も見て全体的に議論することの大事さです。

 またクーさんの本を読んでいると、幅広い知識と現地現物の情報の大事さも痛感します。日本のマクロ経済学者の多く(ほとんど)は経済学しかバックグラウンドになく、ファイナンスや会計の知識が皆無なため、損益計算書と貸借対照表の読み方すら知りません。知っているとしたらソローやローマーによって発展した成長会計(経済成長を資本、労働、技術進歩に分解して説明するモデル)くらいのものでしょう。また投資家との接点もなく、理論の知識しかないので、自分たちが学んだ経済理論と現実世界が違うと「現実世界が間違っている(歪みが起こっている)」という言い方をします。つまり自分たちが正しいと思っていた理論が実は欠陥品だったという可能性は排除する傾向にあります。

 経済のアカデミックな知識と実務経験、さらに現地現物の情報(各種経済主体との意見交換)を備えたクーさんの本は極めて説得力があり、ぜひ日本発の経済理論になってもらいたいと願っています。

この本は、リチャード・クー氏の最新のバランス・シート不況の分析の本ですね。

バランスシート不況とは、「資産価値が暴落するなどして債務超過(バランスシートがつぶれた状態)となると、企業は財務内容を修復するために収益を借金の返済にあてるようになるため、日銀が金融緩和を行っても企業による資金調達が行われなくなり、設備投資や消費が抑圧されて景気が悪化すること。」である。(コトバンクから引用)

今回は、世界のバランスシート不況に対して、その原因と解決策を提示していますね。

基本的に、「バランスシート不況には、財政政策が有効で、金融政策は無効!」としています。

以下、各章のまとめです。

第1章「バランスシート不況の概念」と題して、バランスシート不況になったら、個人も企業も民間は債務の最小化に動くので、政府が財政出動することが大事で、バブル経済崩壊後の日本では、財政出動の景気対策が有効だったとしている。

第2章「金融政策と量的緩和の罠」と題して、バランスシート不況では、資金需要がないので、金融政策は意味がないとしています。

第3章「バランスシート不況化の米国経済」と題して、アメリカもリーマンショックで、バランスシート不況になり、金融政策だけ対応できず、財政政策でも対応したとしている。

第4章「アベノミクスに宿る可能性」と題して、安倍政権は、財政出動だけなく、投資減税や一括償却をして、20年のバランスシート不況のトラウマをなくすべきだとしている。また、為替レートは95円から100円が望ましいとしている。

第5章「ユーロ危機の真相と解決」と題して、ユーロ危機をもたらしたのは、ドイツのITバブルが原因としています。解決案として、マーストリヒト条約をバランスシート不況に対応させるには、同不況に陥った国に財政出動を義務付けるだけではなく、EUやECBが当該国に、お墨付きを与え、必要なら、支援するというところまで、踏むことが大事としている。

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