近代日本の陽明学 (講談社選書メチエ) の感想
参照データ
タイトル | 近代日本の陽明学 (講談社選書メチエ) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 小島 毅 |
販売元 | 講談社 |
JANコード | 9784062583695 |
カテゴリ | 人文・思想 » 哲学・思想 » 東洋思想 » 東洋哲学入門 |
購入者の感想
「陽明学」の近代日本思想における表出を追跡した本。大塩平八郎と三島由紀夫という、陽明学的な考え方にもとづき個人の誠実な心を通すべき理として「乱」を起した二人の傑物を起点と終点において、その間およそ150年にわたって展開された様々な思想/行動家たちの陽明学的思考の歩みを再検討する。すでによく知られていたはずの思想史上の有名人たちが、まったく新しい視点から見直されていくのが、すごくおもしろかった。
天皇中心主義的な国体論を採用し明治維新への道の一部を切り開いた吉田松陰、教会から自由な個々の内面的な信心に価値を認めたプロテスタントの内村鑑三、近代学問制度におけるカント哲学の輸入者たち、山川均らマルクス主義/社会主義論者や表面的にはその対極にあるように思える大川周明のような日本精神/国粋主義者まで、それぞれ異なる知識の好みや政治的スタンスを持ちながらも、その根底ではかなり相通じる部分があった。その共通項となる要素こそが、人間の良心や徳や善意にもとづく行動を重んじる陽明学的な心性であった。彼等の教養の内容や発表された文章の性格や各場面での身体の動かし方をよく見てみれば、それは明白な事実なのである。
著者の独特の話術が意外な精神の系譜を興味ぶかく語り出していく過程は実にスリリングであったし、また、欧米の思想/哲学が日本に移植される際の「うけ皿」となった思考や認識とは何だったのか、という知識社会学/思想史学的な興味関心にも十二分に応えてくれる。昨今の「靖国問題」を念頭におきながら書かれた時論的な著作でもあるようだが、そういう側面は気にせずとも、一般向けの学術的な読みものとして単純に楽しめる。
天皇中心主義的な国体論を採用し明治維新への道の一部を切り開いた吉田松陰、教会から自由な個々の内面的な信心に価値を認めたプロテスタントの内村鑑三、近代学問制度におけるカント哲学の輸入者たち、山川均らマルクス主義/社会主義論者や表面的にはその対極にあるように思える大川周明のような日本精神/国粋主義者まで、それぞれ異なる知識の好みや政治的スタンスを持ちながらも、その根底ではかなり相通じる部分があった。その共通項となる要素こそが、人間の良心や徳や善意にもとづく行動を重んじる陽明学的な心性であった。彼等の教養の内容や発表された文章の性格や各場面での身体の動かし方をよく見てみれば、それは明白な事実なのである。
著者の独特の話術が意外な精神の系譜を興味ぶかく語り出していく過程は実にスリリングであったし、また、欧米の思想/哲学が日本に移植される際の「うけ皿」となった思考や認識とは何だったのか、という知識社会学/思想史学的な興味関心にも十二分に応えてくれる。昨今の「靖国問題」を念頭におきながら書かれた時論的な著作でもあるようだが、そういう側面は気にせずとも、一般向けの学術的な読みものとして単純に楽しめる。