遺伝子組み換え企業の脅威［増補版］ の感想

本書は、1999年に刊行された本の増補版である。『エコロジスト』誌の1998年の特集号が主体であることは変わりがないが、増補版では、ここ10年の動きを概観した解説が追加されている。代表的な遺伝子組み換え企業であるモンサント社の活動を例として、遺伝子組み換え（GM）作物や農薬などの地球環境への脅威を幅広い視点から、コンパクトにまとめている。解説を参照すれば、この10年で問題の深刻さが一層深まっていることが理解できる。

GM作物の問題は、それ自身の人体や環境への安全性への疑問の他、多国籍企業による種子を通じての農業支配や食料支配の問題がある。たとえば、除草剤耐性作物と殺虫性作物は、除草剤に抵抗力を持った雑草や殺虫毒素の影響を受けない害虫をはびこらせ、GM作物はかえってコストや手間が掛かり、また農薬が増加するという悪循環に陥っている。また、除草剤の吸入による健康被害も生じ始めているとのことである。日本にもGM食品が消費者の知らない間に流通する危険が迫っている。したがって、本書の記述は、日本にとってTPPで農業が完全開放された際に起こりうる未来図として理解する価値がある。

本書では、GM作物の他、除草剤や牛成長ホルモンなど、安全性に疑問がある農業・畜産向け製品がなぜ世界を席巻しているかのメカニズムにも言及している。それは、産業側と規制側が人的交流などで一体化しており、産業の利益主体の政策が行われていることにある。ここでも、原子力と同様の利権複合体が世界を支配しているのである。