文庫　平気でうそをつく人たち　虚偽と邪悪の心理学 (草思社文庫) の感想

この本は邪悪な人を徹底的に分析しています。その本質はナルシシズムの闇の部分であり、責任感が薄いだけでなく自己愛的かつ責任転嫁を容易に行うため、体裁が保てないと分かると隠微ながらも破壊的な報復的行動に出てしまう人のことを指します。私はサイコパスも含まれるんじゃないかと思ってますが、関与しているのはナルシシズムだそうです。挙げられている具体例も強烈な人ばかりで、誕生日に子供の希望を無視して拳銃をあげてしまう親、子供に罪悪感を与えて支配しようとする親、筆者と愛し合いたいがためにあらゆる嘘を講じて手段を選ばない淑女など関わりたくない人ばかりですが、その特長として深いカウンセリングをしないと邪悪さが分からない(得てして被害者もその邪悪性に気づかず自分が悪いと思い込んでしまう)所が挙げられています。
こんな人たちに免疫なく出会ってしまうと確実に被害を被るため、邪悪な人たちの思考回路を学ぶ必要があります。この学問が発達してこなかった理由として邪悪さが軍事などに悪用されてしまうのではという懸念があったそうですが、知っておけば得な知識とも考えられます。この邪悪さを他者が変えるのは不可能に近いため如何に早く察知して避けるかに掛かっていると私は思いました。
サイコパスとは一味違ったｎａｒｃｉｓｓｉｓｍの闇である邪悪さについて学ぶならばとてもおすすめできる本です。

邪悪な人間は回避すればよいというのは明快な結論だが、一方で虚偽や邪悪は他人事の話ではなく、自分自身にも当てはまるという実感も。本書はノウハウ本ではないので、様々な気づきが得られればそれでよい。一方で、書かれていることをじっくり読んでいると、他者と付き合うことに恐怖感を覚えてしまうかもしれない。

・屍姦症　他人を支配可能なものにし、その人間の他者依存性を助長し、自分自身で考える能力を弱め、その人間の独自性および独創性を減じ、その人間を制御可能な状態に押さえ込んでおきたい。こういう奴、社会の中でたくさんいる。というか、日本の会社の人事制度そのものを言い当てているようだ。日本企業のマネジメントの特徴は“屍姦症”、と表現するのもあり。

・心理療法の恩恵を受けやすい人とは、健全な人、誠実、正直で思考パターンがゆがんでいない人。逆に、不誠実、不正直、思考がゆがんでいる人ほど、治療は難しい。つまりは、邪悪な人間には何を施しても直らないということ。邪悪な人間に対して抱くのは嫌悪感であり、その感情は大事にしたほうがよいとのこと。この辺りが、「誰でもこちらから好きにならなくては」と語っている薄っぺらな自己啓発本とは一線を画す。

・他人をスケープゴートにする人の特徴　；息子に拳銃（長男が自殺に用いた拳銃！）をプレゼントした良心の例で。自己嫌悪の欠如、自分自身に対する不快感の欠如、そもそもの良心の欠如。外見上は善を振舞うことに長けている。こういう連中、身近にもたくさんいる。大前提は自己愛だという。自分を信じているゆえに、屈服せずに意志が強い。本来であれば、こうした自己愛は一定の年齢時に卒業するのだが、愛情を受けないで育った場合、自己防衛のための自己愛が続く場合がある。

・邪悪な人間が選ぶ見せ掛けの態度に共通しているのが、愛を装うこと。こうした愛がそもそも存在しないことは、大きなストレスがかかって自己愛が露呈する際にばれる。自分の過失をすべて他人のせいにしてしまう。

・近親相姦的服従関係

この本の中では強盗や殺人などの犯罪者などではなく、日常生活の中にある様々な悪が事例で語られている。
兄が自殺に使った銃を弟にクリスマスプレゼントとして渡す両親。子供の自主性と感情をさりげなく、合法的に徹底的に圧殺する上流階級の両親。
邪悪な妻に対して服従的な関係を結び、自殺行為を繰り返す夫。

著者は、邪悪性には、根源的に何か理解不能なものがあるのではないか、と述べ、そして邪悪なものに出会ったときにとるべき
最良の道は、それを避けることである、としている。

確かにお互い、理解し、分かり合うことができないなら、その人間関係は継続できない。理解不能な邪悪な人間相手に得られるものはなく、
関われば関わるほど、何らかのダメージはさけられないだろう。

邪悪な人々はテレビの画面に出てくるような人ではなく、普通の日常生活を送りながら、家族や職場、学校で周囲を毒していく人々なのである。
猛毒なら周りはすぐに気がつくだろう。でも邪悪性は、一般の人々の顔という名のオブラートに包まれた、即効性のない毒なのだ。0