三島由紀夫の家 普及版 の感想

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参照データ

タイトル三島由紀夫の家 普及版
発売日販売日未定
製作者篠田 達美
販売元美術出版社
JANコード9784568120639
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 評論・文学研究 » 作家研究

購入者の感想

1959年(昭和34年)、前年に遥子夫人と結婚した三島由紀夫が、34歳のときに建てた白亜の新居。このスペイン風コロニアル様式の邸宅は、今も東京都大田区南馬込の小高い豪邸街にひっそりと佇むが、内部を伺い知ることはできない。(ちなみに、周辺はかつて多くの文人が居を構え、馬込文士村と呼ばれて散策コースになっている。)

三島の生前にもここを訪れたことのある篠山紀信氏だが、私たちと同じ好奇心と畏敬の念を持って撮影に臨んだことが伝わってくる。貴重な撮影の機会を得て、この建物のすべてを、三島が自決した当時のままという遺品の一つ一つを、漏らさず残しておかねばという気迫を感じさせる。

通りに面した塀、門扉を貫けて、勾欄に挟まれた歩道、庭園に立つ大理石のアポロ像、三島自身のデザインになる石造りのベンチ。玄関を入ると空をイメージさせるオブジェの数々、吹抜けの応接間にある特注の大理石テーブルやキャビネット、暖炉、食卓、大きな海景画を飾った階段、2階の居間。スペインなどで買い求めたという骨董品や愛用品のクローズアップ、往時の三島の姿を捉えたモノクロが要所要所に差し挟まれる。

書斎は、大きなドアの内側が全面鏡張りになって外の現実世界とを隔てており、コクトーの映画「オルフェ」を連想しないではいられない。書物机はオフィス用スティールデスクであり、装飾的な他の場所に比べてあまりに事務的で無骨な様が、当時最新鋭のジェット戦闘機を思わせる。本書の白眉は、全ページの約1割を割いて執拗に隈なく写された書棚だろう。本棚はその人の内面を映し出すというが、それが作家の場合は特に、決して目にしてはいけない創作の秘密を覗き見るような思いがする。

この家は、三島の華麗な私生活の一端を窺わせるだけでなく、秘められた精神世界を反映した場所であり、外見の美しさと内面の虚無を描く、もう一つの三島作品と呼べるものではないだろうか。

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